銀座一丁目新聞

茶説

洞窟壁画「ラスコー展」偶感

 牧念人 悠々

今年の仕事始めは洞窟壁画「ラスコー展」見学であった(1月6日)。2万年前に牛や馬の絵を描いたのには驚いた。場所はフランスの南西部、ヴェゼール渓谷にある洞窟。その描かれた動物の数600頭に上る。一体人類はいつから絵を画き始めたのか、その最古の証拠の一つがクロマニョンの描いた壁画であるという。

まず会場に2万年前の顔料が並ぶ。濃茶色、茶色、赤色、赤褐色、橙色、濃黄色、黒色の顔料の塊、オーカー片、使用痕のある赤鉄鉱など13点。次が彫器、石刃、剥片、背付小石刃、ランプなど40点。

クロマニョンが見た動物はマンモス、ケサイ、オオツノシカ、ホラアナグマ、オーロックス(原牛)、ホラアナライオン、ホラアナライオン、ウマなどである。最終氷期のヨーロッパには現在よりも多様な大型哺乳類が生息していた。それがなぜ絵になる?・・・歌になるのはわかる。

「古今集」はいう。「やまとうたは、人の心の種として。万づの言の葉とぞなりける。世の中の人、事・業しげきものなれば、心に思うことを、見るもの聞くものにつけて、言ひだせるなり」。とすれば、「心に思うことを、描きだせるなり」。絵となる理屈である。 万葉集には「大和には 群山あれど とりよろふ 天の香久山 登り立ち 国見すれば 国原は 煙立ち立つ 海原は かまめ立ち立つ うまし国ぞ あきづ島 大和の国は」(巻1-2)とある。目の前の風景が歌となる。それと同じように画にもなる。「歌心」も「絵心」も全く同じなのであろうか。太古、絵は人間にとって生きる力を与えた。絵によって心が慰められ、戦う力を得たのであろうと思えば得心が行く。

洞窟に入って最初に目にするのは「牡牛の広間」。此処の広さは長さ18m、幅7m、高さ4~5mの楕円形の空間には同時に大勢の人が入ることができる。明かりをともすと赤、黒、茶色、黄色で描かれた動物たちが鮮やかに浮かび上がるという。左壁に左からユニコン右に向かってい勢いよく駆ける黒褐色の馬、黒い斑点のある大きな牛、小さい鹿の群れの壁画群・・・そこに2万年前の太古が現存する。

「初春や灯りに浮かぶ黒い牛」悠々

私の手元に「ジャンプする牝牛」の絵葉書がる。四角形記号に向かって、前脚を伸ばし、後脚を曲げ、華麗にジャンプする牝牛。牛の下に小さな馬7頭が移動している図柄である。この絵のある場所はラスコー洞窟壁画を代表する「軸状ギャラリー」にある。壁画空間は高さ4メートル(下部)・幅1.5m~2.5m(上部)。壁面の上部と天上は真っ白できめ細かい方解石に覆われている。ここに60頭ほどの動物像と抽象記号が描かれている。此処を訪れたフランスの考古学者ブルユイ(1877-1916)はミケランジェロの天井画で有名なバチカン宮殿の礼拝堂にたとえて「先史時代のシスティーナ礼拝堂」と呼んだと伝えられている。

「誰ぞ彼れひしめく群れの声もなく灯りに浮かぶあやしき壁画」悠々