銀座一丁目新聞

花ある風景(615)

湘南 次郎

道楽

老生は、信頼敬愛する友、いまだに元気で活躍している本誌主幹の牧念人君とともに卒寿を迎えた。体力、気力、財力、ともに衰えて来ているのだが、本来の「遊びたい意欲」だけは少しも衰えないのがタマにキズ。いま、一番のストレスは心と身(ヒザとコシ)の葛藤だ。先日も、デーラーへ行って新車が欲しくなり妻や娘に大反対され馬鹿にされる始末だ。でもコソコソ車を利用しドライブを楽しんでいるが、高齢者の事故が多く、われながら心配もある。そこで年一回恒例でやっていた夫婦同伴のJRフルムーンパスに着目、強引に一昨年から春と秋、年二回に増やしてしまった。幸い、家内もこの列車道楽が子供のころから父譲りであったらしく、フトコロを気にしながらも同調してくれた。多少の制約はあるが、JR列車乗り放題、おまけにグリーン車、これには娘たちも今のところ仲よく米寿になる元気な妻同伴になるので文句は言わない。

前置きはそのくらいにして、綿密な準備と妻や娘への根回しのもと、去る11月5日より11日まで一週間、待望の道楽を果たしてきた。その期間に遭遇した一週間のサプライズをお知らせしよう。 「フルムーン 落としたものが 三つあり 博多にヒラリー わがカメラ」

まず、11月8日には博多駅前の大通りで大陥没があった。そして、同日に老生が愛用のカメラを忘失したのだ。ついで、11月10日アメリカ大統領選にドナルドトランプ氏が躍り出た。全世界がビックリ、本命のヒラリークリントン氏が落選した。老生、これが白人のホンネではないかと察するが、株は千円も値下がりした。(もっとも翌日急上昇持ち直しウハウハの人が多かったらしいが)以前三島由紀夫の自害を京都駅で聞いたのも旅行中で、どうも旅行中は、なにかと大きい事件、事故が多い。大体、今回のフルムーンの計画もついてない。一回目は北海道の紅葉周遊だったが、続いた豪雨でJRが寸断、ところどころで代替バス連絡では時刻の乗り継ぎが不明で立案できず中止。5か所のホテルをキャンセル。ニ回目に考えたのが山陰方面、松葉ガニの11月6日解禁である。以前に城崎温泉で解禁日当日で味をしめたことがあったので関連ホテルを予約した。ところが10月21日鳥取方面大地震、余震が続く、急きょまた鳥取のホテルをキャンセルし、山陽方面に。三回目にヤット実行がかなったのだ。

京都で二日間ゆっくり紅葉狩り、高山本線は紅葉を車中で、そしてカメラを忘失したのだ。あとの門司港観光(下関泊)と長門湯本温泉「大谷山荘」は残念ながらカメラなし。ホテル予約直後、新聞紙上で山口県長門湯本温泉「大谷山荘」は安倍首相がプーチンと会談場所に設定されたことを聞く。首相は山口の出身だから、当地は詳しいだろう。静寂幽邃な長門峡谷の立派なホテルで、会談には持って来いだ。もっともわれわれ下々(しもじも)とは格段の隣の別館で行うようだ。宿泊前に大谷山荘より確認とともに「懐石料理に山口産和牛を使うよに案内しましたが、入手困難のため別の産地の和牛を使います」とお詫びのメールが入る。正直でよろしい。偶然、おカミと夕食時と出発時にお会いし立ち話だったが、中年の品のいい立派なかたであった。今度の会談のご苦労は大変だろう。

JR山陽新幹線に乗ってから、高山本線内でカメラ忘失のことを車掌にいうと即座に詳しいことを聞き、早速遺失物係りに連絡し、見事突き止めて、後日宅配便で送ってくれるように手配してくれた。帰宅後、名古屋駅へ礼状を出したが、東海旅客鉄道(株)広報部サービス相談室より対応に担当された方々に伝えたとのお手紙をいただいた。言うことなし、日本の鉄道は世界一だ。

フルムーン一週間パスを老生は、セコイようだが、いつも最初の日を土曜日に充て、日帰り旅行で家に帰ることにしているので一泊分は助かる。それでも乗り放題だから新幹線を利用すれば日帰りでも結構中部・東北地方まで周遊できる。土曜日はホテルも取りにくく料金も高い。そしてまた、日曜日朝自宅出発、6日間の旅行をする。まして、土、日曜は通勤時間が混まない。特別イベントの列車が出ることもある。

来年6月末の一週間のフルムーンこそ4回目だがラベンダーの富良野逍遥と美瑛の丘、旭岳の高山植物を観賞して観たいと思っている。秋は九州を予定と家内にも宣言しているが、米寿・卒寿を超えた夫婦にレンタカーを貸してくれるか心配だ。カメラも住所・氏名・電話のシールを貼り付けた。まだまだ道楽だけは衰えないようだから希望をもって朝の散歩を杖を頼りに足慣らしだ。