銀座一丁目新聞

茶説

天皇陛下のビデオメッセージは生前退位の表明である

 牧念人 悠々

天皇陛下は8日ビデオメッセージで生前退位のご意志を表明された。テレビでその模様を拝見した。陛下はこのようなお気持ちを5年ほど前からお持ちであったという。ところが一向にらちが明かないので国民に直接呼びかける形でビデオメッセージとなったと私は見る。これまで政府がいろいろ理屈をつけて何もやらなかったとも受け取れる。その意味では昭和20年8月15日の昭和天皇の「玉音放送」に匹敵する。

陛下は「全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています」とおっしゃっている。また「高齢に伴う公務の軽減や摂政をおかれること」を否定されている。注目してよいご意向である。

天皇陛下はまじめな御方である。皇后美智子様とのご結婚も自分の御意志で初めて民間の御方を選び、ご自分の意志をはっきりお伝えになった。これまで皇室では子供を他家で育てる慣わしを自分の手元において養育された。明治天皇も大正天皇も公爵中山忠能の邸でお育ちになった。中山家は前大納言の肩書があっても収入はわずか200石、子供は9人もいる家庭であった。昭和天皇は海軍大将川村純義伯爵邸で育てられた。「他家で育てる」のはそれなりの意味はあった。象徴天皇の在り方についてもそうである。憲法第1条「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は主権の存する日本国民の総意に基く」とある。この象徴天皇の務めを真面目に果たされてきた。それが体力の劣れから“全身全霊”を以て果たせなくなった。宮内庁が行っている公務軽減などいらざることである。人間は誰しも75歳を過ぎると体力の衰えを感じる。真面目の人ほど「引退」を考える。82歳の陛下が退位をお考えになったとしても何ら不思議はない。宮内庁長官も天皇陛下御意志に添った発言をするのかと思ったら意外にも「陛下は現在健康であり、多くのお勤めを果たしている。今すぐお勤めが難しくなるという事ではない。直ちに何か具体的な取り組みは考えていない」と言っている(8日スポニチ)。陛下のお気持ちが全く分かっていない。度しがたい役人である。よくこんな人を宮内庁長官にしておくものだと思う。このポストは従来、警察官僚が占めてきた。これまで立派な長官が在任した。それがいつの間にか建設官僚になってしまった。11分のビデオメッセージを聞いて昭和天皇の東宮侍従・侍従次長・掌典長を務めた甘露寺受長さんの言葉を思い出した。「天皇は日本国の象徴であるーと憲法の第一にあるが条文の上では如何にも漠然とした感じで我々の頭にはっきりした像が浮かんでこない。その時陛下のお姿を思い浮かべてみるといいだろう」という。陛下の東日本大震災の際、東北地方へのご視察の模様、避難所で膝を床に置かれ避難者一人一人に慰めの声をおかけになるお姿。南の島での慰霊の旅。その陛下のお姿に日本及び日本国民の行くべき道が示されているではないか。それこそが象徴天皇のお姿である。天皇陛下は率直にそれが難しくなったといわれるのだ。早く悠々自適のお暮しが出来るように願わざるを得ない。国民の一人として天皇陛下の生前退位が一刻も早く実現することを望みたい。