銀座一丁目新聞

花ある風景(604)

並木 徹

夏の戸隠随想

連日30度を超す7月末から8月初めの10日間、長野の戸隠に遊ぶ(7月29日から8月8日)。5月同様、朝に懐かしいウグイの声を聞く。夕方にもその啼く声を聞いた。どうやら我が家の森に住みついたうぐいすはいつでも啼くらしい。

「老を啼く夏うぐいすやわれもまた」永井荷風

永井荷風にはこのほか
「戦ひに国傾きて牡丹かな」(昭和21年5月10日作)がある。

「昼間聴く夏うぐいすの声悲し」悠々

今度、持参した本は立川談志の「現代落語論」(三一書房・1965年12月13日第2版発行)のみ。熟読する。意外と面白い。例えば,噺家が売れる秘訣5ヵ条は1、素人口調であること1、内容は支離滅裂にすべきこと1、ちゃんとした噺をしないこと1、客にこびることⅠ、何んでもいいから歌うことだそうだ。なるほど私の話が下手なのがよくわかった。
一日おきに県道76号線にある新聞販売店に新聞を買いに行くついでにあたりを散策する。戸隠は標高1000m。吾が丸太小屋の近くにある「大頭庵跡」の遺跡(戸隠本坊当慧含大僧都の山荘跡)のそばの小道を往くこと10分ぐらいの山の中腹に「馬頭観音」があるのに気が付いた。大正13年4月17日の建立とある。馬は牛とともに広く家畜として古くから使われてきた。死馬の供養として建てられた馬頭観音は全国にある。守護神として信仰され,山の神や道祖神とも関係が深いという。大正13年4月に飼っていた馬が死んだのであろうか。この付近一帯は稲が植えられている。田圃は十分な水をたたえていた。
気になっていた都知事選挙は予想通り小池百合子の圧勝であった(7月31日午後8時過ぎ)。2位の増田寛也に1119万9175票の差をつけて誕生した初の女性都知事の意義を感じる。小池百合子が立派に都知事の職責を果たせばやがて日本にも女性の首相の誕生を見るのは間違いないと思った。
滞在中、上田に住む孫娘が3歳の娘を連れて遊びにくる。

「散歩道夏華採ってと小さき手」悠々

「広島原爆の日、NHKテレビで原爆被害者の特集を見る。毎年開く「みはた会」の幹事役の石松勝さん(96)が入市被爆の怖さについて語っていた。石松さんは昭和20年8月広島の郊外二本松の駐屯していた歩兵321連隊の連隊旗手であった。この部隊は広島に原爆が投下された日から一週間、広島市内で遺体の処理に奔走した。その数2千を超える。このため、321連隊の隊員全員が被爆手帳を持つ。石松さんや連隊長の後藤四郎さん(陸士41期・故人)は原爆投下されたさた際、広島に在住しておりながら被爆手帳が下りない人には積極的に保証人となりその交付に尽力してきた。テレビで石松さんが孫やひ孫に原爆病の後遺症が現れるのではないかと心配しているのを初めて聞いた。

戸隠を去る日、イチローの3000本安打達成を知る。メジャーリーグ140年の暦の中で30人しかいいない大記録である。その人生は野球のための人生であった。敵味方となくフアンまで称賛する。「明日に生きる男」―イチローは見事である。

「大暑明日に生きる―爽やかさ」悠々