銀座一丁目新聞

茶説

「異次元緩和」から政策転換を

 牧念人 悠々

日銀がデフレ脱却を向けて「異次元緩和」を導入して4月4日で3年が立つ。果たしてデフレは脱却できたのか、設定された物価上昇率の目標は達成できたのか、いずれも「NO]である。「経済は生き物」。予想せぬ世界経済が大きく影響する。日本独自の政策ではどうにも処理しきれないところがある。やむを得ない面もあるにしても「異次元緩和」だけではデフレは克服できない。いずれにしても構造改革へ転換すべきだと思う。読み解く現象は社会にある。今年はとりわけ大学の入学式に付き添う父兄の姿が目立った。会場に入れず別室のモニターで入学式を見た大勢の父兄もいた。少子化時代でなくては見られない風景である。この現象こそ短期決戦の「異次元減の金融緩和」ではデフレを処理できないのを示していると思える。

「物価上昇率2%」の目標。初めは2年程度で達成するといっていた。平成28年4月現在、生鮮食料品・エネルギーを除く消費者物価指数は1.0~1.5%の間である。物価上昇率の目標はさらに先送りされた。3年前に導入された量的・質的金融緩和策は国債を年50兆円買い戻すこと。資金供給量を年60兆円から70兆円拡大することであった。当初は円安と株高で多くの大企業が最高の利益を上げた。企業はベースアップをして賃金が上昇したものの中小企業には恩恵をもたらさなかった。今年のベア闘争は低調に終わった。消費も思ったほどでなかった。GDPの6割を占める国民の消費が上がらないと大幅な成長率が見込めない(目標は名目GDP成長率10年間の平均で3%増,実質GDP成長率10年間平均で2%)。実質GDPの成長率は平成25年度が2.1%、26年マイナス0.9%、27年もマイナス成長であった。平成26年10月には国債買い増しと資金供給量拡大の規模をそれぞれ年80兆円に引き上げた。平成28年1月にはマイナス金利政策導入を決める。

この金融政策を見る限り市場にはお金が十分すぎるほど行き渡っている。それが有効な投資に回され、賃金に大きく跳ねかえれば文句がつけようがないのだが、それが労働者の懐に入らず、企業の内部留保となり、さらに銀行に滞留していては有望な新規企業創設も活発な経済活動も望めない。実は市中に出回る通貨量は前年比3%増に過ぎない。あとは日銀にある金融機関専用の当座預金口座に中にあるという。だからマイナス金利導入を決めたのだ。少しは減ったのかな…。黒田東彦日銀総裁が「不思議なことがある。企業収益は高く労働市場も逼迫しているが賃上げのペースが遅い」と嘆いたのも無理はない(毎日新聞)。それよりも出生率の低下と超高齢化などによる社会的激変が日本経済に与える影響が大きいのではないか。これらの潜在成長率低下の制約は金融政策だけでは処方箋にならないと学者は指摘する(翁邦雄京都大学教授)。この点は今年の2月の主要財務相・中央銀行総裁会議の声明でもいわれている。日本の経済停滞の原因は少子化と高齢化の異常なスピードにある。とすればこれらの経済・社会・福祉対策・構造改革こそ急務ではないか。5月に開かれる「伊勢志摩サミット」が政策転換のチャンスである。「改むるに憚ることなかれ」と昔の人は教えた。老人の言うことは聞くものだと思うのだが…