銀座一丁目新聞

安全地帯(487)

湘南 次郎

坂東33か所観音霊場めぐり

老生、現在2度目の坂東33か所観音めぐりも後半に入って、残り神奈川県2ヵ寺を残すのみになった。実は高校の教員だった後輩T君が昨年3月定年になるのを契機に、35年前小生の50歳代、一念発起して坂東33か所観音巡礼を決行したのを真似して、札(ふだ)所めぐりをしたいので、その案内を懇請され、小生も再度挑戦の決心をした。幸いT君は練馬の旧家の次男坊、多少古いがベンツを愛用していて運転は任せられるの。運転手、カーナビ付きならと快諾。もっとも彼の在職中に、夏休みアメリカ西部国立公園めぐりをレンタカーで2週間も運転してくれて観光したこともあり、老生をパパと呼ぶ親子の様な仲である。

小生の第一回の観音めぐりは、忙しい仕事の合間を縫って休日を利用し、各所でいただいたご朱印によれば昭和55年(1980)4月6日金目観音より62年(1987)4月1日八溝観音まで順不同で7年かかっている。もちろん単独行だ。それが、第2回目は、金は無くてもヒマのある珍道中、文明の進歩と小生の名案内?でこの一年間で31か所回ってしまった。まさに覚醒の感がある。

江戸時代の「新編武蔵風土記稿」によれば永観2年(982)に定められたというが、実は、源頼朝の鎌倉時代から始まって、江戸時代になり観音信仰の信者により盛んになったようで、一番札(ふだ)所鎌倉の杉本寺から千葉の三十三番那古寺まで市街地になってしまったところもあるが、主として関東平野の山麓附近の鄙びた場所にある名刹を時計回りに指定されている。現在でも人家の少ない山野には巡礼道があり、石仏や庚申塔、などがあり往時の面影を留めている。西国33か所(小生は完拝)、四国88か所めぐりも有名だが、関東地方のハイキングや観光地めぐりを兼ねて歩くのには絶好の指針になるばかりでなく、各霊場の近くには名所旧跡の観光地が控えている。例えば鎌倉の三寺と逗子の岩殿寺は鎌倉、三浦半島。浅草寺は浅草,上野。中禅寺は日光、鬼怒川。水澤寺は伊香保、榛名山。事前にインターネットや地図で調べ霊場を少しずつ日帰りや、安くて清潔なビジネスホテルなどに泊まったり、土地の特産を食べたり、そこの人情や風俗に接しながら回る道楽も悪くない。娯楽の少なかったむかしの人々が、旅籠へ泊まって各寺でご詠歌を唱え巡拝した心境が偲ばれる。

小生の第1回の巡拝はまだ仕事中でありヒマもなし。ナビがある時代ではない。高速道路や宿所も少なかったので、案内書などを参考に先方に問い合わせしたりして、綿密なプランを立てるのは楽しみだったが、いざ実施となると軽自動車を使い地図を頼りに道を聞きながら、右往左往だいぶ苦労し日にちを要した。しかし、有名な古寺ばかりなので周辺には歴史的古跡が多く、幸い鎌倉時代の正史「吾妻鏡」を勉学中だった歴史ファンの小生には調査を兼ね好都合だったので、巡礼かたがた坂東周辺の歴史関連場所も調べ記録写真数千枚が今でも史書を読むときの参考に役立っている。

霊場にはかならずご朱印をいただく寺務所があり、参拝後、前もって購入した帳面、掛け軸、襦袢等に当寺の記帳やご朱印をいただく。記帳は300円、印は200円。小生の第1回巡拝の終わったご朱印帳は、仏壇に収納してあるがたいへん良い記念であり、時々拝見して往時の苦労を思い出す。家内に棺桶へ入れてもらうことにしていて、T君との第2回巡拝には、死に装束にする襦袢に印をいただいている。

巡拝の一例だが昨年12月2日には19番札所大谷寺(宇都宮市大谷町)―18番日光山中禅寺(日光市)――17番出流(いづる)山満願寺(栃木市)――
佐野市出流原で一泊――いつも安宿だが、ここだけは特別にインターネットで評5点の旅館(一人18,000円)を利用したがさすがすべて満点、特に名の通り水がうまい。すぐ前の弁天池は清冽な水がこんこんと湧いて鯉が悠々と泳いでいる日本名水百選に指定されている湧水池であった。すばらしい。12月3日は25番大御堂(おおみどう)(つくば市)―26番清瀧寺(つくば市)―28番龍正院(成田市)―27番円福寺(銚子市)と2日間の巡拝であった。

標高1000m余りある福島、茨城県境の八溝(やみぞ)山日輪寺は参拝者が麓の参拝所で拝んで済ます「八溝知らずのにせ坂東」といわれる難所。岩山の上にまたがる懸崖造りの笠森寺の奇観。日本有数の大きな長谷観音。立木の大木をそのまま彫った立木観音。大谷石の崖の岩肌に彫った磨崖仏の大谷観音(本誌昨年12月20日号表紙)。鍾乳洞や湧水を持つ出流(いずる)観音。源頼朝の書状や当時の大板碑群のある慈光寺等々各寺にそれぞれの歴史があり文化があり識見を広めることができる。だが、某寺で「喫煙の人は寺務所入室おことわり」、そばへ寄ると卒倒すると言うひどいニコチン嫌忌症のご婦人がご朱印を書いてくださり、小生は喫煙しないので大丈夫だったが、入口に大きく警告の張り紙がしてあるのには驚いた。宿泊の某ホテルでは豪壮で朝飯付9,300円/室、しかも設備万端整った四人部屋に泊まりビックリ。高速道路を行く先と反対方面に走り、もどるのに時間をロスし、逆走の気持ちが判ってみたり、ナビに道がない新道をウロウロ走ったり珍談、奇談にことかかなかった。

【坂東33か所観音霊場めぐり札所一覧】
  • 第1番 杉本寺(杉本観音) (鎌倉)
  • 第2番 岩殿寺(岩殿観音) (逗子)
  • 第3蛮 案養院(田代観音) (鎌倉)
  • 第4番 長谷寺(長谷観音) (鎌倉)
  • 第5番 勝福寺(飯泉観音) (小田原)
  • 第6番 長谷寺(飯山観音) (厚木)
  • 第7番 光明寺(金目観音) (平塚)
  • 第8番 星谷寺(星の谷観音)(座間)
  • 第9番 慈光寺       (比企郡)
  • 第10番 正法寺(岩殿観音) (東松山)
  • 第11番 安楽寺(吉見観音) (比企郡)
  • 第12番 慈恩寺(慈恩寺観音)(さいたま市)
  • 第13番 浅草寺(浅草観音) (東京)
  • 第14番 弘明寺(弘明寺観音)(横浜)
  • 第15番 長谷寺(白岩観音) (高崎)
  • 第16番 水澤寺(水澤観音) (渋川)
  • 第17番 満願寺(出流観音) (栃木)
  • 第18番 中禅寺(立木)観音(日光)
  • 第19番 大谷寺(大谷観音)(宇都宮)
  • 第20番 西明寺(益子観音)(益子)
  • 第21番 日輪寺(八溝山) (久慈郡)
  • 第22番 佐竹寺(北向観音)(常陸太田)
  • 第23番 正福寺(佐白観音)(笠間)
  • 第24番 楽法寺(雨引観音)(南桜川)
  • 第25番 大御堂      (つくば)
  • 第26番 清瀧寺      (土浦)
  • 第27番 円福寺(飯沼観音)(銚子)
  • 第28番 龍正院(滑河)  (成田)
  • 第29番 千葉寺(千葉)
  • 第30番 高蔵寺(高倉観音)(木更津)
  • 第31番 笠森寺(笠森観音)(長生郡)
  • 第32番 清水寺(清水観音)(いすみ)
  • 第33番 那古寺(那古観音)

お出かけの方は、事前にパソコンで各霊場の詳細を調べてからめぐることをおすすめする。順序良く回らなくともご利益(りやく)には変わりなし。満願つまり全部回り終わった時の爽快感をぜひ味わっていただきたい。しかし、ひとこと付言すれば、わが人生を振りかえり、有り難いご朱印帳や襦袢を終身の寝床に入れてもらっても、果たして老生、極楽往生できるか?それはQuestionだ。

(筆者撮影)


一番札所 杉本寺

岩をまたぐ懸崖の笠森寺

三十三番那古寺のご朱印