銀座一丁目新聞

花ある風景(578)

並木 徹

テログループ対国家・フランスとの戦い

フランス花の都・パリで同時に8ヶ所の爆破・自爆・銃撃戦で129人が死亡、352人の重軽傷者を出す。狙った場所は「競技場」。フランス代表とドイツ代表によるサッカーの親善試合中でオランド大統領とシュタイマン独外相が観戦していた。ついで「劇場」。米ロックバンドのコンサート開催中。さらに人の集まる複数の「レストラン」などであった。ドイツ、米国もテロに巻き込まれた。世界はグローバル化している。それにしても無辜の民を無差別に殺害するのは許しがたい。「人間はかくにも残忍になれるのか」と叫びたくなる。

考えてみれば2001年9月11にアメリカで起きた「9・11」事件より戦争の形態は自由諸国対テログループとの戦いという様相に変わった。国家対国家の戦争は起こらなくなってきた。事件後、過激派組織「,IS」が出した声明によれば、フランスが9月から始めたシリアへの空爆を非難している。今回のテロを一つの戦争の形態と見れば納得できないわけでもない。

パリでは今年の1月7日イスラムの預言者ムハンマドの風刺画を掲載したとして「シャルリー・エプト」本社をアルジェリヤ系フランス人兄弟が襲撃、編集長や風刺画家ら17名が殺害された事件が起きている。これも今回の事件の遠因である。この時、異文化の衝突が論じられた。偶像拒否から世界遺産を破壊するイスラム原理主義と「フランス革命」に象徴される自由絶対主義の対立と捉えられた。フランスでは「表現の自由」の侵害に抗議して400万街頭デモが行われ、その日を記念して「フランスの1・11」の見出しが「ル・モンド」紙を飾った。

今回オランド大統領は「フランスは戦争状態にある」と国民に訴えたが、すでに11ヶ月前にマニエル・パルス首相(53歳。今年10月3日来日、安倍晋三首相と会談)が下院で行った演説で「フランスは戦争状態にある。過激派テロ、国際組織テロとの戦いに突入した」と発言している。この時点でフランスは米国と対テロ作戦では同じ地平に立った。それに今回、ロシアの民間航空機が過激派のテロによって撃墜されたロシアが足並みをそろえることとなった。今後の標的は「アメリカ・ワシントンだ」とISがテレビで事前予告、今後もテログループとの戦い起きるのは間違いない。

今年1月のパリのテロ事件の際、本誌は「茶説」(2015年1月20日号)で次のように書いた。 『日本も決して対岸視してはならない。これまでテログループの指導者の出した声明の中には日本もアルカイダのネットワークの攻撃の対象に挙げられている。目標は原子力発電所、交通機関、浄水場、ダム、自衛隊や在日米軍基地などである。さらに言えば、注目すべきは「イスラム国」の存在である。一向にその勢力は衰えない。「イスラム国」の共鳴者はインターネットを通じて「イスラム国」とつながる。その活動には国境がなく、フランスだけでなくテロの脅威はヨーロッパ全体に広がる恐れがある』 その後1月20日には後藤健二さんと湯川遥菜さんが殺害された。日本とて例外でないことが示された。これでも日本人は世界の平和維持と構築に向けた「集団的安全保障」に理解を示さないのは不思議である。世界平和は人類共通の願いである。頑な宗教原理主義者のグループが不法にして残虐な行為を繰り返せば結束して戦うほかあるまい。この戦争は周到な準備のもと宣戦布告なく、隙のある場所へ随時に突然襲ってくる始末の悪い戦いである。受けて立つほかない。日本とて対岸視するわけにはいかない。