銀座一丁目新聞

花ある風景(568)

並木 徹

ミュージカル『風そより』―それでも生きている街

ふるきゃらのミュージカル・作・演出石塚克彦の『風そより』-それでも生きている街―を見る(7月30日・東京日本橋三越劇場)。テーマはさびれてゆく山村の街を木工と新鮮な野菜直売所で盛り立てて行こうとする住民の物語である。今の日本は人口減で消滅可能な市町村が840もあるという。そんな逆境にあっても陽気に生きてゆく住民を描くのはふるきゃらの最も得意とするところ。市長は小山田錦司、直売所の初子は佐藤水香、その父・源太郎は大塚邦雄、材木屋マルカは螺澤真一郎と健在なところを見せた。最後にちょぴり山菜料理優勝者として同業のご主人・小島茂夫を亡くし今年三回忌を迎える石田里香さんが顔を見せたのにはおどろきであった。
野菜直売所。住民たちのサロン。交流の場である。町の噂はここで全てが分かる。取り仕切るのは初子てきぱきと処理してゆく。”老いては子に従え“と源太郎はにこにこして手助けする。小柄な大塚さんが舞台にいるだけでユーモア溢れた雰囲気となる。まことに微笑ましい。
材木屋マルカ。外国木造のビルがあるという。市長とオーストリア、フランスを視察。木造ビルが4階建5階建て、中には8階建てもある。木目を交互にはりつけして強度の高い材木を作る。「クロス・ラミニテイ・チップ」(CLT)という。さらに端材をチップにしたりペレットにしたりして燃料として発電も可能である。そんな彼の夢を市長が街の目玉商品として売り出そうと応援する。「夢は見るものではなく実現するもの」である。山の中腹にあるマルカの製材所が台風に襲われたとき街の人々が総出で助けあう。マルカは負傷するも救出される。
最期は「山菜料理フステバル」。台風の被害にめげず市長の鶴の一声で開催される。町の人々は山菜を使って料理を作りその腕を競う。住民を盛り上げ、心を一つにするにはお祭りが一番だ。なんと選ばれたのが街の最高年齢の石田里香さんであった。「年寄りを大切にして教えを乞え」と言うことであろう。久しぶりにふるきゃらのミュージカルを見て元気が出た。