2013年(平成25年)8月20日号

No.583

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山と私

(101) 国分 リン

― 苔の森・麦草峠から白駒池 ―  

 八ヶ岳全域には485種類の苔が確認されている。日本蘚苔類学会は苔むす美しい景観を守ろうと「日本の貴重なコケの森」を選んでいる。これまで全国11カ所の森が選ばれている。が、樋口正信・前会長(国立科学博物館・植物研究部)は白駒池周辺について「全国的にみても、これだけコケの景観が美しい場所はまれである。国内では鹿児島の屋久島に次ぐ規模」と、調べたら掲載されていた。

 6月半ばに長野県富士見の古民家在住F氏宅へお邪魔した。昨年秋、八ヶ岳の西岳へ登った時にF氏は今まで感じたことのない辛い山登りだった。心臓疾患が後から分かり、カテーテル手術を受けたと聞き、心配していた。リハビリも終え元気になったから遊びに来ても良いと奥さまから言われ、安心して訪問した。南側の畑にはカモミールやラベンダーの花が咲き乱れていた。次の日の山を相談したら、麦草峠から高見石へ、そこから白駒池経由で麦草峠へと決定した。

 夜半に雨の音で目が覚め、お天気大丈夫かなと心配したが、予報も良くなり、F氏の車でメルヘン街道を1時間、霧の中を走り2000mの標識を見つけた頃には霧の上に出て、麦草公共駐車場へ到着。ここは20年前、山を始めたばかりのころ案内された頃とは様子がすっかり変わっていた。駐車場から10分ほどで麦草峠2127mへ行くと、広々とした草原の広がりと三角屋根の麦草ヒュッテが童話の世界にひき込んだ。樹林帯の中、なだらかに登り、北八ヶ岳特有のコメツガとオオシラビソの林の中、急に傾斜が増し、丸山へ着いた。F氏は信じられないほど快調と、安心した。岩だらけの道を下り、しばらく歩くと高見石小屋2300mに着き、小屋裏の高見石からの眺望が良いので、大きな一枚岩の重なりをF氏たちはあっという間に登り、私は必死で登った。景色は霧の中だったが、なんとか白駒池は眼下に見えた。岩陰にイワカガミの群落を数株見つけ喜んだ。まだ咲き初めで瑞々しくピンクが鮮やかだ。岩の上の歩き方を教えられ、高見石を後にした。ここから白駒池まで独特の樹林帯。深呼吸をしながら快適に歩く。本当に気分が良い。白駒池2115mに着いた。2000m以上の高地にある湖としては日本最大という。おりから陽が射して、水が輝き、あくまでも静かだった。白駒荘の前のベンチでF氏の奥さま手造りお握りは美味しく食べ、感謝した。大きなカメラと三脚を持った一団が来て、急に賑やかになった。写真講座のようだ。ここからしばらくの間はすれ違う人も多く、観光地になっている。


コケ丸君の付いた「苔の森」看板と苔の種類の名前の付いた看板が10枚ほどあった。じっと観察すると面白い。葉の形や色や集合する様がまるで違う。いままでこけと一口で纏めて言っていたが、改めてこんなに種類があり、それぞれに個性があるのも知った。でも10歩進むと苔の名前が出てこないなど、おしゃべりしながら歩くのも楽しい。この道の左右は一面樹木にも苔が付き、トトロの森の様子をしている。白駒池駐車場との分岐から麦草峠への道も別天地のようで、きちんと木道が整備され、「白駒の奥庭」と名がつき、こんなに駐車儒近くなのに、人影はなくひっそりと静まり返り、高山植物が咲く自分たちだけの庭になった。20分ほどで麦草駐車場へ着き、北八ヶ岳初級コースを終えた。

ハードな山も良いが、足の便も良く歩行距離が3時間位で、のんびり自然を満喫できるこの「苔の森」が好きになり、四季を問わずに何度も訪れ、「苔の森」を見守りたい。