2012年(平成24年)1月1日号

No.560

銀座一丁目新聞

上へ
茶説
追悼録
花ある風景
競馬徒然草
安全地帯
いこいの広場
ファッションプラザ
山と私
銀座展望台(BLOG)
GINZA点描
銀座俳句道場
広告ニュース
バックナンバー

 

山と私

(93) 国分 リン

― アイゼンで行った日本最高所雲上の湯と「八ヶ岳・雪の天狗岳」 ―  

 ヒューヒューと風が泣き、川傍にある畳一枚ほどの広さの野天風呂は、冷めないように板が半分ほど浴槽にかけてある。「雲上の湯・2150m日本最高所温泉」の立派な看板が建ててある。雪の硫黄岳が眼前に見え隠れする景色を見ながらの温泉。誰も入ってこないのを確認してザブンと飛び込んだ。少しぬるめで砂底から温泉が出ているが、ゆっくり30分ほど温まらないと雪面を渡る風が冷たくて震えがくる。夏と大違いで誰も入りにくる気配が無く、ひたすら無心に温まった。急いで身支度をし、山靴を履きアイゼンを付けて雪道を本澤温泉へ戻った。夏山の時期、この温泉は順番待ちで入るという。
  

 積雪期の八ヶ岳・初級コースのガイドを片平先生にお願いしたら「天狗岳なら大丈夫でしょう。」

 下調べをしたら、八ヶ岳連峰は夏沢峠を境に南側を南八ヶ岳(狭義の八ヶ岳)、北側を北八ヶ岳と呼ぶが、天狗岳はこの北八ヶ岳の最高峰である。北八ヶ岳はなだらかな山容と深い針葉樹林、点在する湖などに特徴があるが、天狗岳はその中にあって唯一南八ヶ岳に近い険しい山容をしている。

 11月24日 稲子湯から山道へ入り、霜が付いた道をサクサクと聞きながら高度を上げると、凍りついた道になり滑らないように小股でしばらく歩いていたが、台風15号の影響で、登山道が付け替えられた辺りから斜面がきつくなり「ここからアイゼンを。」先生の指導で装着したらスピードが増し、シラビソとコメツガの樹林帯を気分よく歩くと、しらびそ小屋2097mへ到着。みどり池は雪に覆われ真っ白、その上に天狗岳の素晴らしい姿を見つけ、思い出した。8年前の3月に、今年亡くなられたスポニチ山岳写塾の藤田弘基先生の指導の下、夜にみどり池の上から天空の写真技術を、懐かしい。思い出に浸りながらゆっくりみどり池の淵にたたずむ。

 池を渡る風が冷たく、体が冷えてきたので本澤温泉に向け出発。雪が30pほど積もっていたがトレースがありそれほど標高差もない八ヶ岳独特の苔むした樹林帯を歩く。大きなザックを担いだ若者たち数組に道を譲りながら歩いていると、水色、赤や黄色のテントが張られた場所に着き、冬専用の木で囲われた男女別の時間が書かれたお風呂があり、そこを登ると湯元本澤温泉2100m、13時到着。この湯元本澤温泉は江戸時代末期、1874年湯小屋として始まった歴史のある山小屋である。ただ冬場は水が不足し、洗面所が使えないのがとても残念だ。濡れティッシュ持参が反省だった。
 薪ストーブのある談話室で、他の登山客とのおしゃべりはいつも格別の楽しみである。夜はアンカが用意され足元が温かくよく眠れた。

 11月25日 7時出発、天候は晴れ、最初からアイゼンを付け、夏沢峠2440mを目指し、雪道をザクザクと登りだす。この本澤温泉周辺はシャクナゲ祭があるほどシャクナゲの木が多く、クリンソウも同時期に咲くという。温泉に高山植物、多くのファンで賑わうだろうな、など考えながらまだ雪がついてない樹林地帯をジグザグにひたすら登り、急坂を登っていくと山びこ荘の屋根が見え夏沢峠8時30分到着。眼下に本澤温泉の屋根が見え、登った感がある。硫黄岳が見え、男性4人組が向かう。私たちはとりあえず根石岳を目指し出発。稜線歩きは風がまともに頬を叩く。箕冠山(みかぶり)は「えっここ何て読むの。」と思う縦走路の中に看板があった。根石岳2603m到着。「標高2500m以上は森林限界となり、強い風が心配です。」先生が話されたように、ビュービューと風がうなり、雪を吹き飛ばし砂利道にロープが張られた道をひたすら登る。ロープを張った棒にエビの尻尾状の氷が張りつき、風の強さを表している。目の前に天狗岳が、「よし、もう一頑張り。」先生の後姿をひたすら追って夢中で登る。

 東天狗岳2640m11時到着。若い男性パーティが2組だけの静かな山頂からは南に雪を纏った硫黄岳、その右に赤岳が見えた。南西方には南アルプスから中央アルプス、御嶽、乗鞍、西方に穂高から槍の北アルプスの山々が青空の中に白く光り、この景色は山へ登らないと見られないなと思う。西天狗岳もすぐ傍で、頂上の人も見える。「西天狗行きますか。」「夏登っているので。」黒百合ヒュッテ目指して下山開始。下山はルンルンかなと期待したが、北八ヶ岳の特徴の岩ゴツや岩塊の道にまだそれをすっぽり隠すほどの雪の量が足りない。必死で歩くが、岩歩きが苦手な私はスピードが出ない。「ゆっくりでいいですよ。」いつもの先生の掛け声。また岩の登り、天狗の奥庭の標識があり、そこからの眼下の眺めは八ヶ岳を独り占めの錯覚に陥った。追い越された若者たちの姿はあっという間に視界から消えた。急いで怪我をしたらと思うと慎重になる。黒百合ヒュッテの屋根が見え12時30分黒百合平2400m到着。

 おそばを食べていると、山ガールとカップルが渋の湯からバスで茅野へ、私たちと同じだ。その女性は平地なら3時間ぐらいの歩きは平気です。私たちが30分ほど先に出発したのに、すっと「お先に。」走って降りて行き姿が消えた。ようやく渋の湯到着15時30分。無事に終わった。