2012年(平成24年)11月20日号

No.556

銀座一丁目新聞

上へ
茶説
追悼録
花ある風景
競馬徒然草
安全地帯
いこいの広場
ファッションプラザ
山と私
銀座展望台(BLOG)
GINZA点描
銀座俳句道場
広告ニュース
バックナンバー

 

花ある風景(474)

 

並木 徹

 

永井愛の『こんばんは、お父さん』
 

 永井愛の原作・演出んの「こんばんは、お父さん」を見る(11月7日・東京・世田谷パブリックシアター)。1時間45分のお芝居であったが父と息子について考えさせられた。父と息子の間柄は千差万別だと思う。年の差は30も違う、我が息子なら『おやじさん、元気』と挨拶する。終始、廃屋となった町工場で演じられるお芝居より親子の関係は深刻ではない。お芝居は真面目に3・11東日本震災以後に噴出した「幸福論」を追求する。(敗戦で軍人の道を挫折、戦後は余生と思い生きてきた私は自分の幸福を考えたことはない。家庭を顧みず、寝食を忘れジャーナリストの道に励んだ。その意味では自己満足におちいり、家庭的には不幸であったかもしれないと反省している)。佐藤富士夫(平幹二朗)とて同じであろう。集団就職で上京、懸命に働き成功、町工場を持つようになった。バブル崩壊で失敗、今や借金に追われる身である。闇金の社員・溝端淳平(山田星児)にあの手この手で返済を責められる。(こちらはバブルの際,不動産投資には関心があったもの手を控え、紙一重で切り抜けた)。エリートコースを歩んでいた息子・佐藤鉄馬(佐々木蔵之助)もその道を閉ざされ今は行く所なくこの廃屋の工場に居つく有様である。(わが息子は私を反面教師として大学は理系を選び、会社も電力会社に勤務。寝食を忘れることなく、家族を大切にし、ほどほどに働き今は子会社で働く)

 鉄馬は父親が拡張した第二工場へ行っている間、母親が嬉々として料理を作って工員たちにふるまった事、自分の息子の名前を勝馬と名づけたことなど疎遠だった父・富士夫に聞かせる。生きることは理屈ではない。国内総生産を生み出し、経済第一主義を支えた意識などはない。親子にとって生きることは「情緒の世界」である。情緒とは道端に咲く一輪の花を美しいと思う心である。(息子は母親に性格が似ており、こよなく母親を大切にする)。鉄馬は父親の借金のかたに隠していたダイヤ入りの腕時計を差し出す。闇金の社員が差し入れしたお酒を二人で飲み合う。酒は喜怒哀楽を溶かしある時はさらに増す妙薬なのであろうか。「どんなことがあっても生きろ」と鉄馬に言う富士夫である。(私は酒が飲めない。息子とは阿吽の呼吸で通じていると思っている。私の生き方について友達と共同執筆した『平成留魂録』に残している。息子に言う言葉あるとすれば「感謝」と「謙虚」で生きよという)。