2012年(平成24年)6月20日号

No.542

銀座一丁目新聞

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花ある風景(459)

 

並木 徹

 

 大和は国のまほろば・・・
 

 『大和は国のまほろば たたなづく 青垣 山隠れる 大和しうるはし』(古事記)。市川猿之助・市川中車出演のスーパー歌舞伎「ヤマトタケル」を見終わった後もこの言葉が耳に残る(6月11日・新橋演舞場)。最後に亡くなったヤマトタケルが白鳥に変身、高く天翔ける姿に、思わず『大和しうるはし』と口ずさむ。白鳥はさらにさらに高く天翔かける。ここに、このスーパー歌舞伎のすべてが凝縮されている。

 俳優・香川照之が第9代市川中車を襲名したというので新橋演舞場に足を運ぶ。息子の政明(8)が市川団子を襲名したのは理解できる。だが、香川の40代を過ぎての梨園入りに一沫の不安を感じざるを得ない。確かに香川照之は俳優としては群を抜いてうまい。歌舞伎の世界でその所作、ミエ、タテ等うまくこなせるのか。せりふにしても荒事、和事、義太夫狂言、南北物、黙阿弥物と作品によって多様な技術が必要である。それを修得するまでに時間がかかる。それに中車は若くはない。襲名口上は歌舞伎役者らしくない新鮮味を感じたにしても前途多難を思わせる。

 第一幕は帝(中車)がヤマトタケル(猿之助)に熊襲征伐を命じる。帝は威厳があってしかも声に意地悪さをにじませていた。女装したヤマトタケルが熊襲兄弟、その仲間たちと乱闘するシーンは迫力があった。

 第二幕,今度は蝦夷征伐に向かう。焼津で火攻めに会う。蝦夷の兵士に扮した6人の中国京劇俳優の連続した前方・後方宙返りなどの立ち廻りは見事であった。そのスピードある動きには驚嘆した。客席からも大きな拍手が沸く。伝説に名高い弟橘姫入水の場面も出てきた。

 第三幕、伊吹山で山神である白いイノシシと死闘を繰り返し、力尽きてあの世へ行く。白鳥に化身する・・・

 中車は今や無我夢中であろう。歌舞伎と映像。父・二代目猿翁が言う『瞬間を命懸けで』は中車が映像で得た認識と同じだというが、幼い時から身に付いたものとそうでないものとの違いがある。その違いをどこまで補っていけるか、中車の今後の精進に待つほかない。私は大いに期待する。