2012年(平成24年)2月1日号

No.528

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茶説

人間の魂のエレルギーについて

 

 牧念人 悠々

 高橋佳子さんの『魂の発見』の講演会に友人の青木達雄君に誘われて再び聞く(1月22日・パシフィコ横浜)。昨今「人間の魂」がえらく気にかかるからである。
人間の魂の働きを阻害しているのは1、唯物主義2、刹那主義3、利己主義があげられるという。

 人間には108の煩悩がある。この3つの主義の中にすべての煩悩は入るのであろう。私にも常になまけ心、不平、不満、怒りが起きる。だから人間といえる。だから一生修業しなければならない。人の一生は「自己完結」の旅だと思う。

 「魂」とは「永遠の生命を抱く『知恵を持つ意志のエネルギ―』であり、その姿形は肉眼で見えなくとも心の深奥に存在し、仏像の光背のように光の場を形作っている」という(高橋佳子書『魂の発見』三宝出版)。とすれば、人間の魂はどえらい仕事をする。高橋さんはその実例として静岡のユニホーム会社の社長を登壇させて対話をしながら説明する。若い社員たちを育てながら見守ってゆくと早く会社を辞める者が少なくなる。社員たちは仕事を覚え、てきぱき処理し、仕事をするのが楽しくなる。遅れて最後に参加したユニホームのコンペも「今までにないものをつくる」を目標に頑張って勝ちとる。その中で社員同士の絆が生まれ業績も上がってゆく。地域との交流もうまくできる。税務調査されても社員一人一人が質問に答え、帳簿を持参して説明出来る会社となったという。

 スポニチの社長に就任した際、社員を前にして私はアメリカの大富豪ドクター・ハーマーの「人間は意志を持ち,思索し、実行し、努力すればどんな願いもかなえられる」の言葉を引用して奮起を促した。「紙面は命・部数は力・事業は推進力」と懸命に働いた。それなりの実績を挙げたと自負する。いま考えれば社員にこれまで以上にやる気を起こさせたということであろうか。

 しばしば煩悩が頭をもたげてくる。私は朝、机の上に貼ってある「遺伝子を阻害する6つの要因」を読みあげる。1、いたずらに安定を求める気持ち2、つらいことを避けようとする態度3、現状を維持しようとする気持ち4、勇気の欠如5、本能的欲望の抑制6成長意欲の欠如。これを守ると良い遺伝子が働き良い仕事が出来、健康になると信じている。だが、そう簡単には行かない。喜怒哀楽がすぐに表面に出る。怒りはすぐ爆発する。このところ寒い朝はなかなか起きられない。怠け心が出てくる。読書は容易に進まない。人間が次第に退化してゆくような気がしてならない。最も高橋さんは両親家族引き継いだ「血」。地域からの影響を受ける「地」。時代から受ける様々な情報・知識・価値観の「知」の3つが私たちを縛り付けるという。そうだろうと思う。

 魂を目覚めさすのは自分が何者でどこへ行こうとしているのか、何を大切にして生きるかを考えた時であると高橋さんは教える。その点、私には明確な目標がある。敗戦で軍人の道を挫折した私は「人のため世のために尽そう」と心に決めた。86歳の今でもその気持ちは変わらない。あわてず、ゆっくりと愚直に煩悩を抑えつつ目標をこなすほかない。やがて来る死も「自己完結の旅」でしかない。そう考えると、生と死は本の表紙と裏紙に過ぎないと悟る。まだまだ私の人生は長い。