2011年(平成23年)11月1日号

No.519

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山と私

(80) 国分 リン

― 尾瀬沼の盟主「尾瀬・燧岳」 ―  

 深田久弥氏の百名山解説で、燧という名前は、その俎グラ東北面に鍛冶鋏の形をした残雪が現れるからだという。鍛冶すなわち火打ちである。この山を開いたのは、桧枝岐村の平野長蔵氏で、20歳の明治22年(1889年)8月29日燧岳に登り、さらに9月24日頂上に石祠を建設した。その後沼畔に長蔵小屋を建て、尾瀬沼山人と名乗ってその一生を尾瀬の開発と擁護に捧げた。長蔵翁のあとは、御子息の長英さんが継ぎ、燧岳へ女性の為に「長英新道」を開き、尾瀬の為に尽くしている。
(「日本百名山(1964年新潮社刊)」の朝日文庫版から再録)

 9月18日 友のMさんを誘い尾瀬・燧ケ岳を登ろうと計画した。長英新道から登るには、尾瀬沼へ直接アプローチするのが良いと考え、大清水までの夜行バスに決めた。これが夏ならいい時間かもしれないが3時半で暗い。この時間に到着するから休憩所があると早合点したのも悪かった。この大清水で5組の登山客が下車し、そのバスは戸倉へ行き、朝一番の4時半のシャトルバスが出るまでバスは待機するという。

 大多数が戸倉から鳩待ち峠へ行き尾瀬ヶ原へと行くらしい。ベンチで待つこと1時間、ようやく明るくなり4時45分出発。大清水ゲートから市ノ瀬までの林道歩きをし、市ノ瀬6時に着き、休憩所で朝食を取っていると車で大清水まで来た登山客が続き、賑わいを見せた。山道に入り木道の登り道を歩き、7時半三平峠1760m到着。木道を下り始め10分程で尾瀬沼が見え嬉しくなった。早稲沢の前に青空の下に広がる尾瀬沼は素晴しい。

 8時半長蔵小屋到着。塵一つ無い土間へ入り、挨拶して、ぴかぴかの廊下へ着替え等の荷物を置き、激励を受けいよいよ燧ケ岳へ出発。尾瀬沼東岸の木道を気分良く歩く。色付き始めた草紅葉の中に、オクトリカブトやエゾリンドウやウメバチソウが色鮮やかできれいだ。有名な三本カラマツも燧ケ岳と写真に映える。長英新道分岐9時20分ブナ林のなか、ゴゼンタチバナの実の赤い群落に眼を和ませて変化の無い林の中をひたすら登る。途中から「梯子と道の工事中ですみません。」の案内板があり、梯子があり、石ころを木の柵で囲った階段状にした道を登る。ようやく尾根の急騰に出た。ダケカンバの白い幹の林が見事だ。足元のミヤマリンドウのブルーが10輪咲いていた。

 梯子を登り継いで遂にミノブチ岳へ11時40分到着、直ぐ眼前に30分で俎グラ2346mへ、急坂を下り、また登り頂上芝安グラ2356m到着。岩塊が重なる頂上は賑わい、360度大展望が広がる。尾瀬ヶ原を眼下に至仏山も見え、周囲の山々を従えた燧ケ岳はさすが福島県以北の最高峰と感心する。「この大きな風景を目に焼き付けよう。」

 13時下山開始、ミノブチ岳で昼食を取り下りは早く15時に長英新道分岐に着き、
燧ケ岳登山は終わり、長蔵小屋15時半到着。磨きこまれた廊下を素足で歩けるのは、気持ちが良い。お風呂と洗面所が改装され、とてもきれいで山小屋とは思えない。
3連休の中日なのに静かで、「昨日は混雑しましたが、今日は少ないですよ。」と聞き、地震の影響かなと思う。小屋の前の湧き清水が滾々と流れる音と鳥の鳴き声を聞きながらビールで乾杯した。これが山の醍醐味の一つ、美味しかった。

 9月19日晴 昨夜の予報では雨であったが、良い方に変わるのは歓迎で沼尻まで沼の周囲を歩く。何度もこの道を歩いた記憶があるが、こんなに静かな木道歩きは始めてであった。楽しく鼻歌を歌いながら歩く。南岸は土砂崩れ、通行止めになっていた。

 沼尻の休憩所も長蔵小屋の方がお世話をしていた。ここからの燧ケ岳の姿は後の芝安グラも顔を出していた。ここから登るナデッ窪は最短ルートで岩がゴロゴロしている急騰が続くと資料にあった。目で見るだけでも大変そうだ。やはり長英新道を登って良かった。2日間、好天に恵まれ、素晴しい尾瀬に埋没して幸せであった。

 尾瀬のファンは大勢いると思う。私もそのうちの1人、いつまでもいつまでもその美しい姿を守り、その自然環境を守ることが、尾瀬を愛する者の役割と思う。


夏の思い出♪ 江間章子 詩 

1、夏がくれば 思い出す 遥かな尾瀬 遠い空
  霧の中に浮かびくる 優しい影 野の小道
  水芭蕉の花が咲いている 夢見て咲いている水の畔
  石楠花いろにたそがれる 遥かな尾瀬 遠い空

2、夏がくれば 思い出す 遥かな尾瀬 野の旅よ
  花の中にそよそよと ゆれゆれる 浮島よ
  水芭蕉の花が匂っている 夢見て匂っている水の畔
  まなこつぶれば懐かしい 遥かな尾瀬 遠い空