2011年(平成23年)10月20日号

No.518

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安全地帯(337)

信濃 太郎


ヒマラヤの幻の花・青いケシ


 登山家・医師・住吉仙也さんにとって、これまで2回にわたり紹介した「ウスバシロ蝶」(アポロ)、「ソデグロ鶴」、それに今回書く幻の花「青いケシ」が“ヒマヤラの三つの宝”だそうだ。送られてきた「青いケシ」の写真を前に筆者は苦吟する。

 新聞社で社会部の遊軍時代、写真部のカメラマンがとってきた写真説明をデスクから書くことを命じられ苦しんだのを思い出す。すでに住吉さんが別のところで詳しく「青いケシ」を書いている。その発表の時期が36年前とはいえ同じことを書くわけにはいかない。そこで思いつくまま筆をとる。

 ケシから阿片・モルヒネが作られる。東ヨーロッパが原産地。栽培の歴史は古い。日本には室町時代に入ってきたという。吸引するとあたかも桃源郷に遊んでいるような気持になるらしい。ものの本によれば、周りに美術品を並べ春画でも見ながら吸引するのが通のやることだとある。花は色鮮やかである。数年前、東京の近郊県でフラワーショーを準備中にケシの花が発見され大騒ぎになった。

 住吉さんが「青いケシ」を発見したのは1973年8月である。場所はヒマラヤのペリジュ(4243b)からロプジェ(4930b)へ向かう途中である。このあたりにはサクラソウ、リンドウ、ウスユキソウ等の高山植物が小さな花を咲かせている。とある岩陰で幻の花を見つける。殆ど花びらは散り落ちて見えず一つ二つ枯れかけた花びらが花芯にしがみついていた。よく注意して見ていると、道を外れた岩陰に二つ、三つと同じような青い花が風に吹かれていた。さらにロブジェを出発してゴラクシャップ(5100b)に向かう途中の上部、氷河へ踏みはいる直前に完全に咲き誇る幻の青いケシを二株見つける。帰国後植物学者・中尾佐助さんに聞くと、青いケシは47種類もあって住吉さんが撮影した「青いケシ」はもっとも大きな花を咲かせる種類だそうだ。写真で見るケシの青さはまことにあやしげである。人を引き付ける魅力を持つ。ヒマラヤが生んだ青さである。人を誘惑せずにはおかない。BLUE POPPIESという。