2011年(平成23年)10月1日号

No.516

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安全地帯(335)

信濃 太郎


ヒマラヤの蝶の話


スポニチ登山学校で知り合った仲間で登山家・医師の住吉仙也さん(西宮在住)がいる。時々手紙が来る。このほど登山仲間の国分リンさん経由で住吉さんのヒマラヤのウスバシロ蝶(アポロ)の写真などが送られてきた。標本の写真は30枚もあった。

住吉さんが1976年、ジャヌー(7710m・カンチェンジュンガムの西に聳える)遠征の際、3月下旬、ベースキャンプ付近(高度4500m)で220ものウスバシロ蝶を捕獲したという。手元にある図鑑で調べてみると、「ウスバアゲハ」ともいい、北海道、本州、四国にもいる。年1回(暖地では4月下旬から6月下旬、寒冷地では6月中旬から7月上旬)発生、羽の形状は円く,尾状突起もないとある。その時の蝶の様子を住吉さんは「桜吹雪のように白い点々が氷河に沿った側堤を上流に向かって流れてる。上流へ飛び去った群れの後にはおくれたアポロがポツンポツンとあとを追いかける」と描く。蝶の物凄い生命力を感ずる。飛んで行く先は1000m以上の断崖と氷河だけである。微風に逆らってまで上流へと飛んでゆく。4月に入るとときたま飛んでくるが群れとしては全くなかったという。

ジャヌーは1962年フランス隊によって初登頂された。その山容から「怪峰 スフィンクス」とも「眠れる獅子」ともいわれる。ヒマラヤにはカラコルムを含めて8000メートル級の山が14座、7000メートル級はジャヌーを始め350座もある。1956年、日本隊がマナスル(8125m)登頂に成功した際、詩人草野心平は歌った。

「ヒマラヤ三百の山々は
そして広く
そのなかで
群青の天につきささる
三角の牙 マナスル」

住吉さんもヒマラヤに魅せられた一人である。「ヒマラヤには色々、面白いこと、珍しいこと。不思議なことが一杯あってすばらしい」と記す。

なお住吉さんのヒマラヤで捕獲されたウスバシロ蝶の標本は知人を通じて東京にある「虫の詩人の館」に寄託された。