悪いのは総会屋だけか
佐々木 叶

 野村証券をはじめ四大証券、それに第一勧銀と超一流企業が、軒並み一介の総会屋に振り回され「利益供与」の余震は広がるばかり。松坂屋、三菱重工、日立製作所と、大企業の暗部がつぎつぎとあばかれている。

 新聞報道は「総会屋に犯されてない大企業のほうが少ないのでは」と、それならなぜ、新聞は独自の取材で、暗部に挑戦しなかったのか。捜査の火の手が上ってから騒ぎ出すのでは、火事場見物のヤジ馬と変わらない。

 さて、総会屋を、ゆすり、たかり、おどしの知能犯と見なすことに異論はないが、果たして悪いのは総会屋だけなのか、といいたい。彼らの暗躍を許したのは、大企業経営者の保身や事なかれ主義にある。いうなれば大企業自体の弱みに起因する。大看板の陰に隠された経営者の腐敗体質が、総会屋を繁殖させ、悪の温床になっているのだ。

 四大証券には共通の前科がある。どの新聞も取り上げていないが、四十年前の昭和三十年代初め、東京地検特捜部に摘発された「四大証券自己株取得事件」である。野村、山一、大和、日興の四社が、内部資金を巧妙に操作し、自社株を取得することで資本強化を図った証券取引法違反事件だ。四社のトップは連日、取り調べをうけ起訴されたが、この事件で色を失ったのが大蔵省と証券業界であった。四大証券が商取引を装い、資金操作やカラクリを演ずるのは、いわば大証券のお家芸。その手法は、こんどの総会屋事件でも同じだった。そればかりか、総会屋の情報源は、昔も今も“株屋"と相場が決まっている。

 大企業や大証券には検事上りや警察出身者が用心棒代りに雇われ、総会屋対策にニラミをきかせてきたはずだが、こんどの相次ぐ事件で何の役にも立たないことが証明された。彼らもまた、総会屋と同じ大企業の弱味に群れがっていたといわれても仕方がない。


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