「ルイズ その旅立ち」

牧念人 悠々

監督・脚本 藤原智子
日本/1997年作品/カラー/98分/16mm

 ドキュメンタリー映画は事実と事実をつなぎ、積み重ねる。証言を求め、集める。観客はその真実に感動し、その証言に胸を打たれ、涙する。

 「杉の子たちの50年/学童疎開から明日へのメッセージ」を世に問うた藤原智子さんが、今回、無政府主義者、大杉栄の遺児伊藤ルイズさんをえがいた「ルイズ その旅立ち」に挑戦、感動的な作品に仕上げた。

 映画の冒頭に出てくるルイズさんの言葉、屈折した人生を送った人でなければ出てこない。

 「水に流す、というけど流さずにためておくことも大切なの。ためておいてバネにするのよ」

 父大杉栄、母伊藤野枝は大正12年9月関東大震災のどさくさにまぎれて甥の橘宗一(当時10才)とともに憲兵隊に虐殺された。当時ルイズは1才3ヶ月であった。その後、祖父母に育てられ、大人になってはじめて真実を知る。遺志をつぐかのように草の根運動に精力的に取り組み、大らかに朗らかに生きていく。

 戦前戦後の日映の貴重なフィルムが時代背景をとらえ、作品に厚味を増している。

 橘宗一の墓前祭はことしもまた盛大に開かれているが、碑文の一文には「犬によって虐殺された」という文句があり、よくも戦前、この碑文を書いたと思う。また墓をたてた人、この墓を守ってきた人、無法な権力に無言の抵抗を示す庶民の姿を何気なく挿入するあたり、監督の非凡さを感ずる。

 主人公(昨年死去)はガンを知りながら手術も延命措置も一切拒否して死を迎えるわけだが、最後を病見る女医が淡々と語るルイズさんの死にざま、生きざまは見事というほかない。

 「女は飛べるんです。いくつになっても…」というルイズの言葉。多くの理解ある男性に支えられながらも、たしかに女性の時代は到来している。

 (なお、この映画の上映希望者、団体は東京都中央区銀座1-5-13仰秀ビル6F、(株)一ツ橋アーツ TEL 03-5250-9225へお問い合わせください)

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