2010年(平成22年)10月10日号

No.482

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花ある風景(397)

並木 徹

 まなじりをあげ木枯がやって来た 徹也

 同期生・川口久男君(俳号・徹也)の遺稿俳句集「旅のあかしに」(今年7月に発行)を俳人・植竹京子さん(同期生・植竹与志雄夫人)に批評をお願いした。このほど「由緒正しい俳歴を持つ母上のもと詩情をはぐくまれた川口久男氏。 氏を存じ上げぬ私があれこれ言挙げすることは烏滸がましいと思いますが句集中の個人的に好きな句を書かせていただきたいと思います」とお手紙をいただいた。

 何人かの同期生にも川口君の句集を送ったのだが「区隊が同じく親しかったので2度、読んだよ」という人もおれば「川口君の奥さんの手紙に感動した」という人もいて、安木茂君とともに出して良かったと思った。

 植竹京子さんは川口君の句集から次の句をあげる。

色透けて臘梅の香の立ちにけり
母に字を訊ねしことも春火桶
蒼穹に白き群舞や花水木
在りし日の母の文殻明易し
スカンポを折れば昔の音なりし
誰彼の夢美しきキャンプの夜
まなじりをあげ木枯がやって来た
雪に顔押しつけ飛騨を満喫す
人生に余白ありて日向ぽこ
渡月橋吹雪き蛇の目の赤が行く

 京子さんの手紙には「相変わらず身辺をボツボツ詠み己を慰めております。最近感じ入っている句は『死ぬときは箸置くように草の花』と言う小川一舟(鷹主宰)の一句です」とあった。

 京子さんがあげた川口くんの句を続ける。

平成18年狭心症による入院の句
海猫の声嫋嫋と冬ざるる
荒ぶるも照るも冬帝意のままに
音立てて巨木は雪を払ひけり
静けさを寄り深めたる雪崩かな

病に心弱りしつつも深い叙情を底に沈め一貫して背筋伸びた句。
また日赤にて
梅雨の月ある病室に覚めており
大いなる太陽秘めて冬木立

 「最後まで少しも衰えなかった詩情は京極杞陽『木兎』の巻頭も得た句歴の厚さでしょうか。人生という旅を生きるあかしの一句一句に心打たれ敬服いたしました。充実した心で大景と向き合われた方ですね。季語の的確さ品位ある作品は虚子の流れをうけていられるのでしょう」と結ばれていた。川口久男君以て瞑すべし。