2010年(平成22年)4月10日号

No.464

銀座一丁目新聞

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茶説

ああ、人栄え 国滅ぶ
 

牧念人 悠々

 与謝野・平沼新党を支援している石原慎太郎東京都知事が「一体この国はこれからどうなるのか」と言う言葉が頻繁に聞かれるとして、産経新聞に5・15事件の首謀者、三上卓の「昭和維新の歌」を紹介していた(4月5日)。「権門、上に驕れども/国を憂うる誠なし/財閥、富を誇れども/社稷を思う心なし」(2番)「ああ、人栄え国滅ぶ/盲たる民世に踊る/治安興亡、夢に似て/世は一局の碁なりけり」(3番)
 国を憂うるこの人たちの共通した感情のうちにあるものは、今日の政治がもたらした世相世情の混迷と、さらにそれに拍車をかけた無能に近い現政権の低迷への、最早絶望感に近い国民のなげやりの心情があると指摘する。平沼新党の名称が「立ちあがれ 日本」と言うのは理解できる。
 5・15事件には三上卓海軍中尉ら海軍軍人が5名の他、陸士44期生10名、陸士45期生2名(うち1名は中途退学者)が参加している。このため私たちが陸士在学中は「昭和維新の歌」を歌うのは禁じられていた。だが、予科時代にいつの間にか覚えてしまった。今の防衛大学でもこの歌は禁止されていると聞く。
 三上卓が書いたチラシによれば当時の世相世情は「政治、外交、経済、教育、思想、軍事・・・どこに皇国日本の姿ありや 政権党利に盲ひたる政党とこれに結託して国民の膏血を絞る財閥をさらにこれを擁護して圧制日に長ずる官憲と軟弱外交と堕落せる教育と、腐敗せる軍部と、悪化せる思想と、塗炭に苦しむ農民、労働者階級と而して群拠せる口舌の徒・・・・」とある。具体的に昭和7年の出来事を列記する。1月、栃木県阿久津村の小作争議激化し死傷者を出す。2月、井上前蔵相、血盟団員に射殺される。同じ月、東大生,反戦・授業料反対デモ。3月、三井合名理事長団琢磨、血盟団員に射殺される。5月、社会局「各府県の労働賃金不払額は工場203万9千円、鉱山5万6千円』と発表。7月文部省「農漁村の欠食児童20万人』と発表。9月、社会局「昭和6年以降7年4月までの賃金不払い工場805、金額209万8千円』と発表(明治/大正/昭和世相史(社会思想社刊))。
 5・15事件で犬養毅首相が暗殺されて戦前最後の政党内閣となる。テロが頻発、現代と大きく違うが、世相世情はあまり変わらない。今は議会民主主義の世の中である。二大政党化の流れは小党乱立に変わりそうである。平沼新党に続いて山田宏東京都杉並区長ら現職の首長と首長経験者たちが月内に新党を作る構えを見せている。口舌の徒はテレビがあるだけに影響が大きい。政治家も企業も個人も目先の利益追求に汲々としている。国家の在り方も国の防衛も考えない輩が多くなった。普天間基地の移設問題が典型的な例である。日米同盟、安保条約があり、日本の防衛を考える上で沖縄に米軍の基地を置かざるを得ない。それはたとえ住民の反対があっても国を守り、アジアの平和を守るためにも必要なことである。沖縄県民になぜ基地が必要だと言えないのか。国益が優先する。政治家は国民にこびすぎる。日本の財政を考えたらばらまき政策は取ることができないはずである。
 因みに昭和7年4月21日東京市内に自動式公衆電話が4台設置された。いま携帯電話は一般世帯で95.6%普及している。生活の利便性より人の心も持ちようではないか。歴史家ジョバンニ・ポテロは「偉大な国家を滅ぼすものは決して外面的な要因ではない。それは何よりも人間の心の中,そしてその反映である社会の風潮によって滅びる』と言っている(中西輝政著「大英帝国衰亡史」)。「昭和維新の歌」8番は伝える。「ああ、うらぶれし天地の/迷いの道を人は行く/栄華を誇る塵の世に/誰が高楼の眺めぞや」