2010年(平成22年)3月1日号

No.460

銀座一丁目新聞

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茶説

映画「おとうと」のどうしょうもなさ

牧念人 悠々

 山田洋次監督の映画「おとうと」を見る(2月23日・東京有楽町「ビカデリー2」)。どうしょうもない男・丹野鉄郎を演じた笑福亭鶴瓶にどうしても力点が行く。人間には「どうしょうもない部分」が少ないからだ。賢姉、高野吟子(吉永小百合)の一人娘、小春(蒼井優)のエリート医師との結婚式で酒に酔っ払って坂田三吉を歌い、会場をめちゃくちゃにしてしまう。挙句の果ては小春の離婚の理由の一つともなる。さらに吟子は鉄郎の昔の恋人に鉄郎の借金130万円を払わされる羽目にもなる。ほどなくして東京に現れた鉄郎に吟子は絶縁を言い渡す。それに対する鉄郎の言葉が悲しい。「わいみたいな、どないにもならんごんたくれの惨めなきもちなんか分かってもらへんのや」。その後,消息はぶっつり途絶える。吟子はひそかに捜索願を出す。家族に絆は理屈ではない。
 吉永小百合は役作りのためロケ地を歩いたり電車に乗ったりしてその場所の風を感じるようにしていると言う。高野吟子を自然に演じ、演技にメリハリがきちんとついている。人間を侮蔑したり悪しざまにいったりする相手に、激しくたしなめる。共感する。音楽担当の富田勲さんが言うように吟子の清純さはフルートが似つかわしい。
 心に残ったのは吟子のセリフである。小春との仲がしっくり行かなくなった夫の医師に『二人で話し合ったら・・』と勧めると、夫の医者が「何を話し合えというのだ」という。今どきの若者は皆このようなのか。若者はコミューケーションの取り方が下手だというが雑談でもよい。雑談の中に仲良くなる目が含まれていると思う。吟子は「チャンと向き合って真面目な事を真面目に話しなさい」と諭すのである。山田監督は「夫婦の間でも真面目な問題がある。だからきちんと話し合うべきである」という。このシーンは小春の離婚を暗示する。
 だらしない男の死にざまが幸せであるのにホッとする。身寄りのない人たちを受け入れる民間のホスピス「みどりのいえ」で吟子と小春、それに再婚相手の大工の亨(加瀬亮)に見守られ、ホスピスを運営する小宮山千秋(石田ゆり子)に『優しい身内に囲まれて旅立つのは幸せよ」と語りかけられてあの世へ。現実に東京・山谷に山本雅基さんと妻の美恵さんが経営する「きぼうのいえ」がある。赤字を抱えながらどのような人であれ「生きなおすこともできるし、良く亡くなることもできる」と懸命に運営しているという。私には鉄郎の「お姉ちゃん、おおきに」という声が聞こえたようなきがした。