2009年(平成21年)8月20日号

No.441

銀座一丁目新聞

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追悼録(357)

竹久みちを偲ぶ

 知人、竹久みちさんが亡くなった(7月24日・享年79歳)。京都に住む友人の紹介で10年ほど前から時折、異業種の友人5,6人で夕食会を開いていた。会合ではみちさんは個人的なことはあまり触れずにほとんどアクセサリー事業の話であった。事業家としてはやり手だという印象を持った。渦中に巻き込まれた三越事件については誰も言うことなく話題にしなかった。ある時、竹久さんから三越事件について自分の立場を書いた自著「罪名 女」(ごま書房・2004年5月10日発売〉を送ってきた。この件については2004年12月1日号の「安全地帯」で取り上げた。この本は面白かった。竹久さんを見直した。三越事件の裁判で裁かれたのは「女(おんな)」であったというのが新鮮であった。つまり三越事件は偏見とウソの証言で固められ、被告が女ゆえに偏見が起こり、竹久さんが「愛人関係」を最大限利用したと邪推され、断罪されたというのである。
 三越の岡田茂社長と竹久みちさんが問われたのは「特別背任罪」である。二人は共謀して竹久さんの会社から三越へ納入した代金の4年間の粗利約16億円を三越に損害を与えたというものである。二人がいくら共謀しても16億円の大金を出し入れできるものではない。三越の主任、課長、部長、役員という関係者が話し合い、仕入計画、販売計画を作り上げて取引が成立する。仕入れにしても販売にしても決済は各部で行われている。社長個人ができるわけがない。できたのは三越の社員、幹部、役員が”ウソ”の証言をしてつじつまを合わせたからである。
 ここで思い出した。これは佐藤優さんが鈴木宗男代議士とともに「背任罪」と「偽計業務妨害」で逮捕されて有罪となった「国策捜査」と酷似している。佐藤優さんの容疑は2000年1月、ゴロデッキー、テルアビプ大学教授夫妻を日本に招待したこと、さらに4月、テルアビプ大学主催国際学会「東と西の間のロシア」に7名の学者と外務省のメンバー6名を派遣。この費用が外務省関連の国際機関、支援委員会から3300万円出ている。この金を引き出したのが違法で「特別背任」に当たるという。どちらの支出も局長の決裁も外務次官の決裁も出ている。それなのに外務省の役人は鈴木代議士に恫喝されたり、人事上の不利益を受けたりするのが怖くて仕方なく決裁書にサインしたと、つじつま合わせをしているのだ。
 世の中は出る杭は打たれる。もちろん出る杭をさらに伸ばす人もいる。そのうえ人間同士の怨念が絡まる。執念深い人は長い年月をかけ周到な準備をして相手の追い落としに掛る。竹久みちさんが幸せであったかどうかは私には分からない。彼女が残した著書「罪名 女」は有益な著書であることは間違いがない。ご冥福をお祈りする。
 

(柳 路夫)