2009年(平成21年)6月20日号

No.435

銀座一丁目新聞

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花ある風景(350)

並木 徹

篆刻の世界に遊ぶ

  6月の日曜日、銀座で開かれた二つの篆刻展をみる(6月14日)。まず鳩居堂画廊の「第4回中村蘭台一門篆刻展」に足を運ぶ。3階と4階会場に一門の会員152人の作品が並ぶ。壮観である。篆刻に賭ける会員達の熱気を感ずる。
 友人の医師、星野利勝さんがどのような漢字を篆刻するか興味があった。「問東答西」(星政徳)と「筆歌墨舞・焼筆硯」(細野明)の間に星野さんの「莫妄想」の篆刻があった。私の想像を超える言葉であった。だが、ぐさりと来た。このところ私は体調不調で眠れず、死の妄想にとりつかれているからである。妄想が夢にまで出てきて思わず「春の夢三途の川へ招かれる」と詠んだぐらいである。「みだらなおもひ」は人間誰しもが抱くものであろう。徒然草にも「所願皆妄想なり」とあり、華厳経にも「以妄想`覿倒執着而不証得」と見える。星野さんの篆刻は3文字ながらバランスがとれている。とりわけ「想」の漢字の「心」が芸術的に形作られている。この芸術的変形に作者のセンスが問われる。文字の一画、一画がそれなりの意味合いを持つのであろう。
 

 

 この会場で佐藤雨春の「感謝」に目がとまった。展示された「感謝」の篆刻の下に英語で「THANNK YOU」と墨で書かれていた。「謝」の右の「射」が右肩上がりに描かれており、感謝の気持ちを十分表現されていると感じた。
 次に銀座協会・東京福音会センターギャラリーエルビスの「第12回銀座篆刻展」をみる。作品は33点。新宿朝日カルチャセンター篆刻教室で学んだ人々の出品である。星野さんも同期生に奨められて篆刻に興味を持ち15年ほど前からはじめたという。作品は「作事謀始」であった。易の言葉で君子の心がけるべきことを指す。事をなすに当たって始めにいろいろ考え事が支障なく行くようにしなさいと戒める言葉である。それにしても漢字は面白い。漢字は「意符としての形体素と声符としての音素との精然たる体系を持っている」(白川静著「漢字百話」より)という。例えば万葉集の「旅にして物恋しきの鳴くことも聞こえざりせば恋ひて死なまし」(67番)の最後の七文字を漢字で表記すると「孤悲而死萬思」となる。作者の気持ちが実によく表現されている。篆刻も表現されている文字の形、選んだ言葉に作者の心が出てくる。篆刻は漢字遊びから出て立派な一つの芸術に進化したものといえる。星野さんは70歳になる少し前から細かな作業を必要とする篆刻に挑んだというから敬服するほかない。私のような無為口舌の徒はただ脱帽するのみである。