2008年(平成20年)12月1日号

No.415

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花ある風景(330)

並木 徹

「太鼓たたいて笛吹いて」は大竹しのぶのはまり役

 こまつ座・井上ひさし作「太鼓たたいて笛吹いて」を見る(11月26日・東京新宿・紀伊国屋サザンシアター)。戦争に翻弄されながらも自分を見つめ直した林芙美子を描く戯曲である。林芙美子役は大竹しのぶにとってはまり役で今後とも彼女の持ち役として続演されるだろう。配役陣がいい。林キク(梅沢昌代)。何 をやらせてもうまく、その役にピタリと溶け込む。醸し出す雰囲気がなんともいえない。その人のやさしい性格が自然とにじみ出る感じである。三木孝(木場勝己)意外に器用で歌がうまいのに驚いた。役者の「沈黙の間」を説くこの人は哲学者でもある。島崎こま子(神野三鈴)加賀四朗(山崎一)土沢時男(阿南健治)。欠かせない存在がピアニストの朴勝哲。「文字よ 飛べ飛べ」が好きだという。語り部を任じるわたしも好きだ。「文字よ 飛べ飛べ/どこかの誰かに/あしたのこころを/つたえてくれんさい」。6人の役者の息がよく合っている。芝居後もその感動が不思議と長く続く。もう一つ忘れて はいけないのは井上ひさしの表現力である。その「言葉」の使い方は絶品である。思想的には井上ひさしと私は対極的立場にいる。それでも井上ひさしを尊敬する。劇中に歌われる「物語にほまれあれ」には胸が刃でぐさりとつかれる感じがする。「物語を決めるのは/この国のお偉方/人気投票が行われる/国民は票を入れる/物語がここに成立/物語にほまれあれ/これぞ全国民の意思である」国の作る物語にはゆめゆめ気を許してはならない.
 三木は芙美子に言う「明治から昭和にかけてこの大日本帝国を底の底の方でうごかしているのは戦はもうかるという物語」この物語に沿って仕事を進めなさいと勧める。大勢順応型の日本人は「太鼓をたたいて笛をふいて」進む。異端者を切り捨てるわけである。ところが敗戦直前から芙美子は危険人物視される。戦後は戦争未亡人、復員兵、戦災孤児などに焦点を合わせて時代を見つめる作家になる。「その人たちの悔しさそのひとたちにせめてものお詫びのために・・」書きまくった。芙美子が死んだのは昭和26年6月28日であった。川端康成は「この人の小説には何か索獏とした風がふいていた。人生に対して深い愛情を持ち…」と書く。享年46歳であった。ある評論家に「あれは一種の緩慢な自殺ではなかったか」といわせるほどであった。お芝居が終わった後、大竹しのぶの「わたしは日本を愛している/私は日本をはなれられない/滅びるにはこの国が/あまりにすばらしすぎるから」歌声が耳に残った。