2008年(平成20年)10月10日号

No.410

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花ある風景(325)

並木 徹

竹山愛のフルート演奏を聴く

 音楽会で頭に電流が流れたように感じ、おかしくなったのは初めてである。私のクラッシク音楽の回路が砕けてしまった。「三菱地所賞」受賞者記念リサイタルの第2夜(10月7日・丸ビルホール)で、竹山愛のフルート演奏・一柳 慧の「フルート独奏のための≪わすれえぬ記憶の中に≫」を聞いた際の出来事である。竹山愛のフルートは今年の2月14日芸大で開かれた「モーニングコンサート」で聞いている。その時演奏した現代フィンランドを代表する作曲家K・アホの「フルート協奏曲」を聞いて、その将来性を評価してその名を記憶しておこうと本紙に書いた(2008年2月20日号「安全地帯」)。
 この夜、竹山愛は石橋衣里のピアノの伴奏でT.ベーム:「シューベルトの主題による幻想曲 作品21」などを演奏した。心に響き、気持ちよく聞いた。彼女は3月に芸大を卒業、大学院に進み、さらにさらに大きく成長したようである。
 一柳慧の現代音楽のフルートの演奏が始まると、私の頭はパニックを起こしてしまった。はじめは和楽器「笙」のような音色の如く聞こえたがそうでもなかった。曲想はアジタート(せきこんで)のようであり、アダジェット(おそく)のようでもあった。緊張したフルートの独特の音色が響く。私は恐怖すら感じた。私はこの音楽は理解できなかった。ということは竹山愛がこの現代音楽を完全に弾きこなしたということであろう。演奏に隙間があったら私はほっとしたのにちがいない。
 「プログラムノート」によれば、この曲は一柳慧が2001年に作ったもので、作曲中に6年前に起きた阪神・淡路大地震の記憶が脳裏から離れなかったという。道理で私が「恐怖を感じた」はずである。フルートほどその音色に個人差が出る楽器はないという。地震の巨大なエネルギーといつ起こるか分からない恐怖を示すのは、変化に富み豊かな音色を出すフルートこそふさわしい。竹山愛はそれを見事に表現したといえよう。
 演奏後入口で竹山愛とあったので「なぜ一柳慧の作品を入れたのか」質問したところ「好きだからです」と答えた。竹山愛の進むべきは現代音楽である。おそらく数年を経ずして竹山愛はフルートで現代音楽を演奏させれば第一人者になるであろう。