2008年(平成20年)6月10日号

No.398

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茶説

日本は、荒田博士の「常温核融合」に力を注げ
 

牧念人 悠々

  今月の初め、友人の野地二見君から阪大の荒田名誉教授(文化勲章受賞)の常温核融合が5月22日実験に成功したのに日経産業新聞(5月23日)しか報道されていなのはおかしいと聞かされた。常温による核融合ができれば決定的なエネルギー源となる。新聞が無視するはずがないと思い調べてみた。
 日経産業新聞の記事はこうである。「大阪大学の荒田吉明名誉教授は22日、外部からエネルギーを投入しなくても熱を取り出す公開実験に成功した。核融合で出来たとみられるへリウムが大量に検出された。同名誉教授は『従来とは違うタイプの核融合反応が起きている』としているが、熱の発生量の測定は難しく、常温核融合の証拠とするには多くの追試が必要だ。(中略) 公開実験ではパラジウム原子が格子状に集まった超微小粒子を真空容器の中に入れ、中性子を原子核に含む重水素のガスを吹き込んだ。大気中の十万倍のヘリウムを検出、石炭一グラムに相当する三十キロジュールの熱が発生したという。(中略) 核融合は1989年に英米の研究者が報告。社会現象になるほど研究熱が高まったが、様々な追試でバラツキが大きいことから常温核融合を示す明瞭な証拠とはなっていない」
 新聞の見出しは「常温核融合?熱発生、発熱量、測定難しく証拠不足―阪大名誉教授公開実験」である。
 この公開実験は5月22日午後1時30分より大阪大学内の先端科学イノベーション棟1Fセミナー室およびC棟3F研究室で行なわれた。報道関係者としてテレビ大阪、共同通信、毎日新聞、朝日新聞、日刊工業新聞、時事通信、日本経済新聞の各社がきていた。
 それにもかかわらず一社のみの報道とはどうしたことか。このような場合は事実のみを報道してあとは専門家にコメントさせればよい。疑問を持ちながら報道した日経産業新聞の態度は褒められてよい。読者に事実を提供せずして自ら「不掲載」(ボツ)の判断を下すのは邪道である。
 毎日新聞について常温核融合関連の記事を調べてみると、平成7年12月27日の新聞に今回と違う方法による実験が行われ成功したと報道されている。また平成14年12月7日にも別の方法による実験が成功したとある。毎日新聞の場合はこれまでに報道しており、「常温核融合」熱が冷めたということであろうか。
 国はすでにフランスで建設がはじめられている「国際熱核融合実験炉」による「熱核融合」に米国、ロシア、中国らとともに加わり技術協力、経費分担をしており荒田博士の「常温核融合」には冷淡である。だがこの研究には中国も人的にも力を入れており、米国、ロシアは資金や材料原料などで協力することによって主導権を取ろうとする動きを見せている。外国から注目され、その研究が実用化に最も近いといわれる荒田博士が他国に取り込まれるようなことがあれば日本にとって一大損失である。何よりも日本のエネルギー戦略、将来の安全保障という大局から判断せねば悔いを千載に残すことになろう。単なる科学の実験成功のニュースでも記者たちの頭のどこかに日本のエネルギー戦略・安全保障という問題意識があれば、記事がボツになるようなことはなかったであろうと惜しまれる。「問題意識を持て」とは新聞記者の「いろは」である。

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