2008年(平成20年)3月1日号

No.388

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茶説

イージス艦と漁船の衝突事故を考える

牧念人 悠々

  「銀座展望台」(2月28日)に次のように書いた。「この国には「国防」について、また、自衛隊員に対する配慮が全くない。海上自衛隊のイージス艦と漁船の衝突事故で当直士官だった航海長をヘリで省内に呼び事情聴取したことにメディアも政治家も問題にする。『軍事組織が早い段階で状況を把握するのは鉄則だ』(産経新聞)。事故が起きて対応・対策など何もしないという方がおかしい。国際的には司法警察が「軍隊」を取り調べるということは考えられない。米海軍の場合、任命された調査を統率する。だから日本では軍事機密の固まりのような「イージス艦」の家宅捜索が堂々と行われる。秘密保持が大丈夫なのであろうかと疑問が起きる。人間はミスを犯す。神様でない。まして国防を担っている海上自衛隊の事故である。もっと暖かい目で見守ってやることは出来ないものか。野党が「政局」にするならさしておけばよい」
 テレビは連日のように海上自衛隊、イージス艦と漁船の衝突事故を報道する。何時に漁船に気がついたのか、連絡はどうであったのか、事細かに伝える。また野党は防衛相の辞任問題を追求する。もっとバランスのとれた対応が出来ないものか。事故の大筋はイージス艦が避けるべきであったのを直進し、回避を怠たったという点にある。落ち度はイージス艦側にあるように思える。二人の漁船乗組員の行方不明は残念だが、後は海上保安庁、海難審判庁の調査に任せるほかあるまい。
 海上自衛隊に私は悪い印象を持っていない。戦前の海軍の良き伝統を受け継ぎ、軍律は厳しく、練度は高いと思っている。米国海軍が他国に先駆けて日本にイージス艦4隻を配備したのは何よりの証拠であろう。事故が起きたのは残念である。遺族に補償し再発防止策を早急に立ててほしい。
 昭和63年7月23日横須賀港北防波堤灯台東約3キロ沖で海上自衛隊・潜水艦「なだしお」(排水量2250トン)が遊漁船「第一富士丸」(154総トン、全長28.5メートル)と衝突、30名が死亡、17名が重軽傷を負う事故があった。この時も「潜水艦の隊員達は沈没してゆく遊漁船を眺めているだけであった」などと海上自衛隊に対するバッシングがひどかった。当時の瓦力防衛庁長官が引責辞任した。海難審判では双方に過失があるとされた。刑事事件としては「なだしお」艦長に禁固2年6ヶ月執行猶予4年、「第一富士丸」の船長に禁固1年6ヶ月執行猶予4年の判決であった。当時の報道とは相当な乖離があった。
 この時、艦長等が衝突時の航海日誌を後で改ざんしたことや「なだしお」の軍事機密である旋回性能の検証開示を行わせたことが問題になった。後者の軍事機密の漏えいは重大な事柄である。今回も問題となろう。
 憲法76条2項は「特別裁判所は、これを設置することができない」とある。戦前のような軍事法廷の設置を禁じている。とすれば司法警察にゆだねるほかない。だが、いつまでも放置してよい問題ではない。今回の事故を機にアメリカはさらに高度な軍事機密を持つ航空機、軍艦を日本に譲らないであろう。そうなれば、日本の国防上由々しきなことである。産経新聞(2月28日)によれば、軍隊における捜査・裁判権の独立は国際的な常識だとしてアメリカの海軍の例をあげる。「事件の規模に比例し、階級・権限を考慮して任命される指揮官が調査を統率する。調査後、予備審理で軍事法廷が必要か否かが、指揮官によって判断される」必要とされたら軍事法廷の準備が進められるという。日本では憲法改正が早急に行われる期待がないので別の知恵を絞らねばならない。20年前にも事故の際の軍事機密問題が浮上しながら今日に至っているところこの国の「国防」に対する無関心さと「国を守る意志」のなさを今更のように痛感する。
 海上自衛隊もこの際、猛省の必要がある。幹部諸君よ、五誓を忘れしや「一、至誠にもとるなかりしや 一、言行に恥ずるなかりしや 一、気力に欠くるなかりしや 一、努力に憾みなかりしや 一、不精にわたるなかりしや」
 テレビの前で堂々と所信を述べよ。この国はいつまでたっても国を守る気概がない国民になってしまう。

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