2008年(平成20年)2月10日号

No.386

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茶説

頑張るとはどういうことか

牧念人 悠々

  よく「頑張ります」という。頑張ってそれなりの成果を出す意味に使われているのであろう。だが、多くの場合、挨拶代わりのようである。何もしないのと同意語といって良い。中国製造の餃子がおかしいので「調べてください」と保健所に持っていても「病院から中毒の知らせがきていないからだめです」と拒否する。なぜ中毒を起こした主婦の身になって考えて、もう少し思いやりを以て対応できないのかと思う。ここで検査して居ればもっと早く中毒を防げた分からない。今の現場の人には「食中毒を医者が見逃したのではないか」という発想もなければ、わざわざ保健所へ足を運んだ相談者への「痛みを思いやる」気持ちもない。「食品中毒は広がれば大変なことになる」という想像も浮かばない。まして勘も鈍い。これが現代人の「頑張ります」の中身である。日ごろ漠然とした気持ちで仕事をしているのがほとんである。
 さらに社長を含めて管理職のだらしなさは目に余る。自分の「職責」を果たしていないのである。問題の天洋食品(中国河北省)製の冷凍食品について「異臭がする」などのクレームを輸入元の親会社「日本たばこ産業」が昨年4月にすでに把握しておきながら放置していた。「一歩誤れば食品中毒は命取りになる」と知れば、全国の店舗に指令して類似の食品に対する苦情がないか調べるべきであった。パソコンが普及している現在、一日でそのような情報はすぐ集まるであろう。また中毒や食品のクレームを情報公開をして居れば問題をもっと早く解決できたかもしれない。「常に最悪の事態に備えて」ものを考えるのは管理職のつとめである。それを督励するのがトップに責任である。
 食中毒事件については国内外の事例、とりわけ最近の出来事、その際どのような事例が起こりどのような対応をしたかあらかじめ調べておく必要がある。職責を果たすとは自分に与えられた仕事を単にやり遂げるだけでなく、よく考えて+アルフアの価値をつけることを指す。仕事をすればそれに伴っていろいろな情報が入り、その情報が自分の仕事にプラスとなって跳ね返ってくる。
 昭和30年6月ごろ、岡山県下で多数の幼児が原因不明の発熱・下痢・肝臓肥大などの奇病が発生、さらに中国、近畿と広がった。8月13日になって岡山大学医学部は2人の乳幼児の解剖の結果、原因が粉ミルクに含まれる砒素と突き止めた。8月23日には森永乳業徳島工場で製造した粉ミルクに砒素が混入したのがわかった。被害は死者133人、患者1万1788人、1都2府25県の地域に及んだ。
 徳島工場で粉ミルクの安定剤として使用した工業用第2燐酸ソーダはアルミ製造工場の廃棄物を脱色、再結晶させただけの粗悪品であった。しかも化学検査もしていなかった。原因確定まで2ヶ月掛かっている。これが被害を拡大した。誰も本来廃棄すべき第2燐酸ソーダが再利用されているとは知らないであろう。幼児が飲む粉ミルクである。十分検査が済まされているであろうと考える。それにも手落ちがあったのである。現場を歩いて調べると,乳幼児たちは母親がこの粉ミルクを飲ませようとすると一様に嫌がった。母親たちはそれを無視して無理やりに飲ませたという。「早く気がついておれば・・」というのが母親たちの嘆きであった。
 社長を含めて管理職は現場を歩け。目を光らせよ。現場には多年まかり通っている慣行があり、無駄なことがあり、危険と知らずにやっている仕事がある。現場で社員の苦情も、悩みもわかる。消費者からの苦情も聞けるかも知れない。「現場は経営にとって汲めど尽きせぬ宝庫」である。これからは「頑張ります」といわずに「親切に応対します」とか「現場を回ります」と具体的にいうべきである。

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