2007年(平成19年)11月10日号

No.377

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茶説

”防衛腐敗”を生んだ男の出世物語

牧念人 悠々

 あまのじゃくな私は、東京地検に業務上横領で捕まった、防衛専門商社「山田洋行」の元専務(69)が憎めない。驚くべき人脈づくりと営業力であり、なみはずれの気配りである。これらの才能のない私は驚嘆する。
 元専務は高校卒業後、航空自衛隊に入隊、夜間、中央大学経済学部で勉強、卒業すると、防衛商社に入社する。入隊した自衛隊は学資うる手段で、「苦学生」ではなかったのか。向学心旺盛とみる。69年に設立された防衛商社「山田洋行」に転職する。これから頭角を現す。まず「目標」をたてる。海外メーカーの販売代理権である商権を獲得するのが彼の目標であった。私は毎日新聞には「食うために」に入社した。国民の知る権利のために働くなどという高邁な理念は頭になかった。元士官候補生の誇りを忘れず、他の記者に負けず真面目に仕事しようと心がけたに過ぎない。仕事にとって当たり前のことかもしれないが、確固たる「目標」をたてるのは大切であると痛感する。
 彼は防衛庁に日参する。案外、粘り強い人かもしれない。日参すれば職員と顔見知りになり、庁内の変化がわかる。幹部を酒席やゴルフに誘う。面識のない係長級の職員まで高級牛肉やカニなどのお中元・お歳暮をおくる(毎日)。この気配りはすごい。人脈を作り、情報収集に役立つ。人脈作りは米国まで及んでいる。親日派で知られるアミテージ前国務次官補さえ知っているのは驚きであった。 守屋武昌前防衛事務次官(63)と知り合ったのは23年前、守屋次官が40歳の時である(当時は防衛課の中堅幹部)。将来性のある役人に目をつけるのは商売にとって当然であり、悪くはない。だから彼は防衛省が調達予定の装備品の概要をいち早く知ることができたわけである。守屋元次官と知り合って5年後の平成元年には米ゼネラル・エレクトリック(GE)が開発したF2支援戦闘機エンジンの販売代理権を三井物産から奪い取った。「40年近くGEの代理権を独占していた大手商社を出し抜いたのだ。彼の営業力が初めて業界他社の驚異に写った」(産経)。やがて会社の業績は上がり、年商300億円となる。私は戦後起きた数々の重要な事件を取材する機会に恵まれたが、彼に比すべき大特ダネをとっていない。強いてあげれば、同僚と共同で取材した企画もので「日本新聞協会賞」や「菊池寛賞」をいただいただけである。
 元専務は昨年6月、経営方針を巡りオーナー側と対立して退社したのがつまずきの元であった。一挙に不正の事実が噴出した。人は「謙虚さ」を忘れたときに身を誤る。何事にも他人の支えがある。その感謝を忘れると人は傲慢になる。
 防衛利権は1兆円にも上る。東京地検の解明は国際的なスケールに広がる可能性も秘めているという(産経)。山田洋行の急成長に大きな役割を果たした男の人生も「謙虚」「感謝」ともっとも基本的な人間の徳性をないがしろにしたことでスキャンダ ルの末路を迎えたのは哀れというほかない。

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