2007年(平成19年)6月10号

No.362

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花ある風景(277)

並木 徹

子どもといっしょに良い芝居をみたい

  演劇集団「円」のプロデューサー、小森美已さんが「お母さんといっしょの優しい時間」(グラフ社)という本を出した。NHKテレビではじめて放送された幼児番組「おかあさんといっしょ」(昭和35年)を駆け出しのプロデューサーとして取り組んだ著者である。制作現場にいること15年、この間、音楽家、小森昭宏さんと結婚、三児の母となる。劇団女優岸田今日子を知るに及んで盟友となり、子供たちのお芝居「こどもステージ」が実現する。「おかあさんといっしょ」がこどもが大きく健やかに育つための大切な「キーワード」だという。共稼ぎ家庭が多くなり、子供部屋も出来、子どもと母親が一緒にいる時間が少なくなっている現在。このキーワードはかみしめてみてよいであろう。「こどもステージ」も今年で26年目を迎える。この経験を綴ったこの本には子育てに必要なヒントがいっぱいある。
 お芝居は「汚れた心を洗い流すほど美しいもの」という。彼女が3歳の時から中学生まで見たお芝居の話を語る。「古今著聞集」に出てくる源博雅の笛と盗賊の話は寝物語に子供に聞かせれば喜ばれるであろう。小森さんが演劇に志した美的原体験である。私が小森さんを知ったのは平成元年春で女子大の同級生の紹介であった。そのときに「お化けリンゴ」の話を聞いた。この人は立派な仕事していると感心した。初演の時に美智子さまが浩宮と礼宮を連れておいでになった。宮内庁の係が隣に座って舞台のことを説明してくださいといわれたが、小森さんは「説明なんか入りません。大丈夫です」と答えた。その通りであった。小森さんは「子どもたちの感性の鋭さに改めて感心しただけでなく子どもに見せる舞台の可能性の大きさに確信した」という。香山美子さん作・柿本耕造さん絵による絵本「どうぞのいす」はウサギが作った「どうぞのいす」をめぐってロバ、クマ、キツネ、リスが次から次へ登場、疲れたロバが寝ている間にロバのドングリをクマが食べ「あとから来る人がお気の毒」とハチミツを置いてゆく。キツネがそれを食べ「あとかからくるひとに気の毒・・」と焼きたてのパンをおいていく。次に来たリスガパンを食べ、同じことをいってクリを置いてゆく。目を覚ましたロバがびっくりする。ドングリがクリに変わっている。「ドングリはクリの赤ちゃんだったのか」がおちである。このお芝居を見た2歳児が自分の好きなおやつを全部たべたあと「あとの人にお気のどく」といったそうだ。子どもの心にはお芝居はテレビや映画、インターネットなどのコピー映像より遙かに鮮烈に焼き付けられる。子どもには「ナマの人間が汗を流し、ナマの涙を流して演技する」良いお芝居を見てほしいと小森さんは強調する。何も子どもに限らない。大人でも芝居は観るるべきだ。亡き先輩は言った。「名文家になりたければ、芝居、音楽会、美術展を観ろ」。

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