2007年(平成19年)1月20号

No.348

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茶説

外交とは何かを考える

牧念人 悠々

 佐藤優さんはその著書「獄中記」(岩波書店)で「外交の世界には、けして人前にに晒すことがあってはならない秘密が存在する。そのような交渉に関与した政治家、外交官はその秘密を場合によっては墓場まで持ってゆかなくてはならない。これが国際的に確立した厳粛な『ゲームのルール』である」と述べている。そのような場合があるだろうとは思う。だが、主権が侵害された『拉致事件』のような場合1、謝罪  2、犯人の処罰 3、再発防止 4、現状復帰。できない場合は補償。この4つの原則を貫くべきである。
 昭和48年8月8日、日本に亡命中の金大中が東京のホテル・グランド・パレスから韓国情報機関に拉致される事件が起きた。現場に駐日韓国大使館の金東雲一等書記官の指紋が残されていた。現在では犯行に加わった中央情報部員と金大中を韓国に運んだ「竜金号」の船員合わせて46名の氏名もわかっている。昨年2月に公表された韓国外交通商部「外務部文書」によれば、昭和48年8月14日(事件発生後6日後)外務省アジア局次長、中江要介は駐日韓国大使館公使、尹河挺(ユンハジヨン)と参事官、李相振(イサンジン)にこう発言する。「この問題で、日韓関係に影響を及ぼしてはならない。特に国連(朝鮮問題)の対策を考えて事件を拡大させない方向で収拾しなければならない。韓国政府○○機関が関係していないと絶えず明確に言う事が必要である」。日本の主権が侵害された事件に対して「韓国政府の機関がやってないとはっきり言い続けなさい」と韓国側の日本に対する答え方を教えてやっている(古野喜政著「金大中事件の政治決着」―主権を放棄した日本政府‐東方出版)。裏交渉とはいえ、このような事が行われてよいのだろうか。金大中の来日という「現状復帰」はなかったし、関係者の処分も明らかにされていなかった。文字通り「政治決着」であった。世界から日本外交が侮られるはずである。しかもその後中江要介は中国大使などを暦任、昭和62年退官する。北朝鮮による拉致問題は安倍晋三首相がいる限り下手な決着はしないと思うが、外務省が交渉をやるわけだから国民は監視つづけねばなるまい。産経新聞にこんな記事が載った(1月11日桜井よしこの「安倍首相に申す」)。谷内正太郎外務次官が昨年12月13日東京・麻布の飯倉公館で開かれた外務省のOBの忘年会で日中間の懸案である首相の靖国神社参拝問題についてざっと以下の趣旨で発言した。「安倍首相の参拝は日中両国が首脳が頻繁に会うことで回避できる。首脳会談の前には参拝は避けることになり、会談直後もまた控えることになる。首脳交流を頻繁に行えば首相参拝は物理的に不可能になる」。その気持ちがわからないではないが、なんとも姑息な発言である。靖国参拝は安部首相に任せておけばよい。本人自身行くとも行かないとも言っていない。参拝したい時に行けばよい話だ。桜井よしこさんが言うように「中国が自分の都合で靖国問題を持ち出したり引っ込めたりしている」だけである。国益といいながら内実は卑屈に、相手に媚びるようにやってきた日本外交を転換すべき時がきた。かってアメリカのウッドロウ・ウィルソン(28代アメリカ大統領)は「外交はもはやプロにより秘密裡に行われるべきではなく『公開裡に達成された、公開の合意』に基づくべきである」といった(ヘンリー・A・キッシンジャー著「外交」上・日本経済新聞)。第一次大戦後1918年、有名な”14か条の平和原則”の中の言葉である。その言葉が懐かしくなる。外交は所詮人がやるものである。日露戦争当時のルーズベルと親交のあった金子健堅太郎、外相小村寿太郎、駐米公使、高平小五郎のような外交官を100年かけて育てるほかあるまい。『百年兵を養う』とは日本では外交官に向けられた言葉である。

 
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