2006年(平成18年)3月1日号

No.316

銀座一丁目新聞

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(7)
オカリナ職人 藤田 東悟

−オカリナ造りと酒造り(2)−

 

  杜氏は寝る所も個室が与えられ蔵人は一つの部屋にうなぎの寝床のように布団を引き寝ておりました。蔵人は夜中に自分の担当している処を見回りしていたようで、係りによって見回る時間が違いますのでそのたびにごそごそされるわけですから大変だったと思います。それにもまして私が感心したのはだれが見回りをしているかを杜氏はしっかりと把握していたことです。今は酒の搾りも自動化されセットさえすればプログラム通り自動的に機械が圧力を変えて酒を搾ってくれますが、私が初めて酒造りをした頃は油圧式のジャッキで搾っておりましたので人が油圧を変えないと圧力が変わらず、そのために酒が良く搾れず結果として酒粕が多くなり酒の収量が少なくなります。そのため船頭は夜中に圧を変えていたようです。船頭が夜中にその操作をしない時が有り杜氏が注意していたことがありました。

 モロミも発酵が盛んになってくると泡が盛り上がってタンクから溢れてしまいますので泡傘と言う高さ50〜60cm位の筒状の物をタンクの上に乗せ、泡消機と言う小さいモーター付きの回転機で泡を消し泡がこぼれるのを防ぎますが、機械が故障し止まる可能性もあり実際に故障したのを何回も見ております。泡がこぼれても昼間はだれかが気が付きますが夜は見回りをしないと見つかりません。また泡と言っても液体ですから少しでも隙間があればそこから漏れてしまいます。実際昼間、泡が溢れるのを目にしたことがありました。発酵の泡の力で泡傘を持ち上げてしまいそこから泡がこぼれるのです。また泡の中には非常に多くの酵母がいますのでタンクから泡がこぼれると仕込みタンク中の酵母が少なくなってしまい、発酵力が弱まり発酵に重大な影響が出てきます。発酵は昼夜関係なく進みますので夜中も気を許せないのです。今は泡無し酵母という酵母が開発されており泡がほんの少ししか立たない酵母があり、タンクの容量いっぱいに仕込めるようになり泡傘を付ける必要が無くなりました。汚れた泡傘を洗うのもけっこう大変な仕事でそれが無くなった事でモロミ係りは喜んでおりました。ただ杜氏は泡が立たないので今までの経験してきたモロミとは状態が違うため、モロミの状態を把握するのに初めの頃は大分苦労していたようです。

 麹係りも翌朝麹室から出す麹は夜中に菌糸が米粒いっぱいに回り非常に元気よく活発に活動する時間帯で、人が活発な運動をしたときは体温が上がるのと同じで麹も温度が上がってしまい、総ハゼ麹と言われる米粒表面にいっぱいに菌糸が回り、中には胞子を付けた麹も見られる麹になってしまいます。そのような麹を使用して酒を仕込みますと麹の酵素力が強すぎ雑味の非常に多い酒になってしまいます。ですから麹係りは麹を出した時の麹の状態をイメージし、掛け物を取ったり、広げたり、室温を調整したりして目標としている麹の状態になるように調整しているのです。

 蔵の中の諸々の生き物達は昼夜に関係なく活動しておりますので、一時も気が抜けません。乳児はミルクを与えておけばよいですが、動き始めた子供たちはどこに行くか分からずお母さんたちが気の抜けないのと同じで、ひとつとして気の抜ける工程はありません。ですから蔵人全体で協力して目標の酒質になるように努力し、それを統括していたのが杜氏でした。

 藤田氏のオカリナ紹介サイト(販売もあります):
   http://www18.ocn.ne.jp/~tougo/

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