2005年(平成17年)11月10日号

No.305

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北海道物語
(22)

「渡り鳥飛来す」

−宮崎 徹−

  今月の8日、NHKニュースで北海道のオホーツク海に近い涛沸湖(トウフツコ)に、白鳥が飛来して湖面を埋めている華やかな光景が眼に入った。秋の終わりの風物詩の一つである。シベリヤやアラスカで暮らすオオハクチョウはカムチャッカ半島経由で北海道に渡って来る。晩秋の北海道は彼等に取っては適温であり、水草の餌も十分である。しかし寒さが進めばやがて水面は氷結して餌も取れず、気象的にも厳しくなるのでより南の東北地方や関東にまで南下する。ひと先づ北海道で憩いを取り、体力を付けるために、涛沸湖、風連湖、旭川の近くでは美唄の宮島沼などに、白鳥やマガン(雁) 、鴨などが渡ってくる。目下話題の鳥インフルエンザには関係のない地域からである。
 旭川でも白鳥が飛んで来ると地元の北海道新聞の記事に成る。私も友人に誘われて「永山新川」という石狩川につなぐ分水路に出掛け白鳥が泳いでいるのを楽しんだことがある。
 この「永山新川」は、大雪連峰から湧き流れる牛朱別川の増水氾濫を防ぐために石狩川につなぐ分水路で、分水後の本流は旭川の西端の神居古潭の手前で合流している。
 この分水路の工事は20年もかけた大工事だった。この川は長さ5700メートル、川幅も200メートルもあり、大雪と旭川の景色が眺められる新しい名所になりつつある。
 また永山地区を紹介する「川のふるさと交流館 さらら」の建設も終わっている。
 永山新川は、地域の発展の為の大きな仕事だが、此の数年来春秋に渡り鳥が飛来して、旭川には珍しいこの風景が今や思いがけない大評判となっている。
 ラムサール条約指定の保護区が全国的に増加し、北海道には、今年も其の数が多くなった。国の天然記念物マガン(雁)の国内最大の最北寄留地の旭川に近い美唄市の宮島沼もその一つである。シベリアから此の沼地に立ち寄り、宮城県の伊豆沼に向かうのである。かつては雁はもっと南下したようである。茨城県や千葉県の海岸が、港湾の開発のために埋め立てられたので、宮城県北部が南での越冬地となったようである。北海道は氷雪がきついので、終の宿地とはならないのである。
 旭川でも鴨は多く飛来して、霞網の使用が許可されて居た頃は、鴨鍋もさかんだった。現在でも、シベリア→サハリン経由→北海道→本州コースが雁と白鳥で、東シベリア・アラスカ→カムチャッカ経由→北海道→本州が鴨類と大別されるようだ。渡り鳥は、春はまとまった数でシベリアに向かうが、繁殖期を終えてシベリアの夏を過ごし、秋に南下する時はバラバラに近いかたちだ。
 平成10年の3月に初めて新川に3羽の白鳥が飛んで来た。最初は鴨に遠慮しながら来たかも知れないが、4月になると380羽になった。鳥にも情報伝達の手段があったのであろう。白鳥が来ると絵になるので、TVも新聞もよろこんで報道し市民や観光客が押しかけるようになった。。今年平成17年は、3月に数羽が飛来し、4月18日には3千5百9十羽を算えた。秋は少なくて現在40羽と言う。鴨は新川だけで春に3万羽以上を数える日があるようだ。鴨に比べると白鳥はスターである。
 春の渡り鳥はその繁殖地(シベリア等)に対する帰巣本能といわれるが、秋の渡りは冬の寒さと食物の欠乏が主な要因といわれる。北海道では皆一時型の滞在である。白鳥は水面が氷結すれば移動せざるを得ない。従って東北や茨城県牛久沼などには残留することもある。新潟県瓢湖は地元の人達の保護活動で白鳥が飛来し越冬するので有名である。吉祥寺の井の頭公園に行くと広い池に多数の水鳥がいて、子供達のやる餌を目当てに寄って来て、ほほ笑ましい風景だが、冬でも留っている鳥が多数であるという。
 永山に大きな土木工事が始まると言って地元の建設業者がどよめいたのは昨日の様に思えるが、歳月は大工事も完成させ、今は水鳥も集まる様に成った。一部では、水草を取る白鳥も、パン屑に慣れると生態系が崩れると心配する。ラムサール条約指定第二号の伊豆沼では、雁や鴨が稲を食べて被害が大きいとの声もあった。人間と鳥との共存にも、注意を払わなければならない問題も出て来よう。それでも、時期が来ると、水鳥の群れに寄って喜ぶ子供達と、人に馴れて追って来る小鴨を見て、旭川市民は此の共存を大切にしたいと思っている。

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