2005年(平成17年)11月1日号

No.304

銀座一丁目新聞

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北海道物語
(21)

「新しい人生を大雪周辺」

−宮崎 徹−

  全国的に人口減少の時期に入り北海道も2030年には百万人減の予測という。道庁始め産官力を合わせて此の対策を図り、東京では、北海道移住に就て、団塊の世代の退職者への説明会 が始まった。
 日本列島改造論、新産業都市、テクノポリス、地方の時代、村おこし、一村一品等々、地方を活性化しようとして、国は数次の綜合開発計画を立て、地方自治体も此れに参画し、エコノミストも論を重ねたが、それでも格差は拡がって来た。高度成長期には、北海道も土地や労働力の面で全国から期待された時期もあったが、中国や海外の諸国に利点をうばわれ、その期待は何時のまにか薄らいでしまった。更に国は三位一体改革の方針で、地方の自立を要求している。政治は弱者の為に有り、北海道は後進地域で弱者だとの主張は、小泉内閣の進める方向とはズレが有り、此のズレは今回の国政選挙で明らかである。現実の北海道の状態には不安なところが多く、人口問題も其の一つである。
 1987年に制定の「リゾート法」は、地方の自然の魅力で各県をリゾート地として活性化を図る動きを高め、北海道では「富良野・大雪地区」がリゾート地域の指定を受け、此より以前に国際観光モデル地区に指定されていた「札幌・支笏湖地区」「函館・大沼地区」もクローズアップされて、大自然を持つ北海道の出番が来たと道民は喜んだ。
 江戸時代の大名行列やお伊勢詣りは、今の言葉で言えば通過型観光で、宿場の本陣はホテル、茶店はドライブインで金が落ちた。参勤交代のお供で江戸に詰める武士が寺や浅草の盛り場を見て廻るのは滞在型観光と言えるだろう。昭和平成の御世は、大都市の豊かな市民が逆に余暇を活用して、地方へ旅行や、気候や環境の良いところへ長期滞在をし、その移動人口が都鄙のバランスを取るという主旨が国土庁中心のリゾート法にはあったと思う。
 しかし、リゾートとはフランスのバカンス法から始まっている。第一次大戦が終わった1920年代、レオンブルムという革新内閣が連続二週間の年次有給休暇制度を取り入れた「バカンス法」で労働者の条件改善をはかった。勤労者は折柄の自動車・航空機の発達で海山の安価なリゾート地での休養をはじめ、滞在日数も逐次延び、この風潮は欧州各国に拡がったのである。高度成長期日本人は働き過ぎと言われて、地価の上昇によって狭い住宅に暮らす都会人には、これは休養のためには好適と思われたが、バカンス法の様な根拠のない我が国がつくったリゾート法は、都会の大資本やゼネコンが需要の伴わない大規模な施設を各地に建設し、それにひきづられて中小の事業者が、同じようなリゾート施設を造った。そして直後に、戦後最大の規模で起きたバブル崩壊があり、長期にわたる大不況が、来たのである。これは供給 側にも利用者側にも、とんでもない悲劇をもたらしている。長い淘汰の混乱の後、今、後始末に登場したハゲタカファンドには、国土庁が望んだ様な多極的地域振興などの考え方は全く無い。
 漸く長期に及んだ景気の低迷から抜け出す兆候があらわれたが、この間に社会の生活や思想の変化により今迄経験したことの無い人口減少の時代となり、特に此の傾向は地方、更に僻地が影響を蒙るだろうと予想されるのである。
 今、北海道は明治の初期とは意味の異なる、本道移住者を募っている。北海道は永年観光旅行で親しまれた国内であり、会社員時代に居住経験の有った人も多い。60才を越す首都圏の年金生活者には生活費の計算でもマンションや独立家屋での暮らしが十分に可能であり、毎日が日曜日ののようなものだから、道内のレジャー・リゾート施設も思い思いに活用出来るのである。
 ただ、そういう可能性のある東京人と会話をすると、対象地域はどうしても札幌とその周辺がよいという。寒さの点・除雪・交通機関何れを取っても、余生を送る年代としては、都市的機能の備わって居ることが条件だと思っているようだ。特に女性にはその要望が強いようである。
 しかし30代以降を道北・旭川で暮らした私は、このような移住では益々札幌の一極集中が進んで、北海道の中の“地方”の発展が生かしにくくなるのを心配している。今年旭川の有志が、首都圏や近畿圏の退職者を対策に移住下見ツアー説明会を数回催したという。民間レベルの各市町村でも始まっていると思うが、大雪山の周辺は札幌とは異なった山麓・田園への移住者を想定すると、矢張り農業関連。年金のことや将来の都会生活での窮屈さから考えると、定年を待たないで早い時期に新しい人生を再スタートさせるのはよいのではないかと思う。そのような場合の北海道への移住は自給自足からスタートして新しい農牧や地方でのサービス業を思考するのがよいのではないかと勧めたい。北海道の風土の特色を生かし、北海道の人々の親愛の情に頼りながら、自分の人生を、新しいステージで生かすことが出来るのではないだろうか。その中でも大雪周辺には無限の夢がありますよ。

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