2005年(平成17年)9月10日号

No.299

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茶説

ハリケーンに見るアメリカの醜態

牧念人 悠々

 超大国アメリカは意外ともろかった。米南部を襲ったハリケーン「カトリーナ」に貧富の格差、黒人問題、自然災害に対する予算、備えの脆弱さなどが一挙に噴出した。最も欠落していたのは、リーダーに「常に最悪の事態を考えよ」という危機管理の原則であったように思われる。ハリケーン襲来以来2週間以上になるのに死者の数が不明というのも異常な事態である。初動のつまずきが後に尾を引いているとしか考えられない。
 「カトリーナ」は予想外の大型台風であった。警戒レベルが最高「5」と発令されてニューオリンズの多くの住民は避難をしたが、10万の住民が居残った。中には自分の意志で避難を拒否した者も少なくない。何よりも市民の安全と財産を守のは第一義的には市長・州知事の責任である。1999年の大型台風の時はいち早く州兵を動員して32人万の住民を強制的に避難させている。当時は閣僚級の権限を持つ独立官庁の連邦緊急事態管理局(FEMA)が的確な指示を出し、被害を最小限にくとめた。今回は2001年の同時多発テロ以降に新設された国土安全保障省に組み込まれ格下げになったため準備と対応が遅れたという。このようなことは理由にならない。CNNテレビとTODY共同の世論調査によれば「ニューオリンズでの被災の問題の責任は誰に最もあると思うか」の質問に「誰にもない」が38パーセント「州や市の責任者」が25パーセント「連邦政府機関」が18パーセントで、ブッシュ大統領をあげた人は13パーセントに過ぎなかった(9月9日産経新聞)。テレビで住民たちが商店の商品を略奪している様子が映し出されていた。日本では考えられない。それほど貧しいということであろうか。アメリカではハリケーンの場合、住民の救出と同時に治安維持も緊急な仕事であることを示している。連邦法の規制から陸上部隊の派遣がためらわれたとしても、被害が予想外とあれば、大動員しても非難されることはない。9日現在、州兵41000人、陸軍部隊17000人が被災地へ投入されている。ここはリーダーの決断である。ルイジア州知事は当初、州兵の出動を拒否したと伝えられる。結果的には治安も悪く、22万人もの被災者がテキサス州へ「南北戦争以来」とい大移動を余儀なくされた。
 「救援活動の遅れ」をヒューストン市にのがれた避難した住民は異口同音にいう。各州から2万人を超えるボランティアが集まったのはさすがアメリカだと思うが、地元の女性ボランティアはいう。「被災者同士が助け合うどころか、略奪やレイプが起こるなんて・・・。これは米国の恥だ。すべての対応が遅いのがこうした状況に拍車をかけていると思う」(9月5日産経新聞)。ともかく未曾有有の事態であった。リーダーたるものは臨時応変の処置をとり、時には超法規的な処置を執る覚悟が必要である。日本もけして対岸視できない今回のハリケーンの惨禍であった。

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