2005年(平成17年)8月1日号

No.295

銀座一丁目新聞

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お耳を拝借(137)

「負うた子に教えられ」

芹澤 かずこ

  いつも私のことを気遣ってくれていた弟子の奥さんが、脳内出血で左半身が不自由になった。まだ50代の若さだというのに。4ヶ月に及ぶ入院とリハビリを終えて今は家に戻っているが、片手での家事その他はさぞや不自由なことだろう。自分も以前、左肩を強打して3ヶ月ばかり痛い目や不自由な思いをした時も、寝床から起き上がるのさえままならず、電動のベットが欲しいと切に思ったものだ。
 家を訪ねるにあたって、毎日の生活で何か役に立つ物を探していってあげたい。でもどんなものがいいのか、やっと思いついたのはワンタッチの傘ぐらい。
 病院で仕事をしている娘にも訪ねてみた。
『いくらだって道具はあるわよ。今は一般化してしまっているけれど、ライターだって、オートマの自動車だって最初は身障者のために考えられたもの。吸盤付のお皿や食器が動かない敷きマット、簡単な針の糸通しのようなボタンを留められるもの、手に固定出来るホーク、ほかにもいろいろあるけれど、でもそれは他人が考えて贈るものではなく、不自由でも道具に頼らず何とか努力するか、否か、本人が選択するもの。そんなお土産のことを考えていないで、先ずは会いに行くこと。様子を見て何か必要とするものはないか、直接聞いてそれから探してみるのが順序ではないかしら』
電話口から娘の明快な答えが返って来た。
 私はどうも杓子定規にものを考えるところがある。先ずは行動ありき。一緒に行きましょうと、何度も言ってくる弟弟子の奥さんと連絡をとってさっそく顔を見に行って来よう、そう思ったら少し気分が楽になった。



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