2005年(平成17年)6月1日号

No.289

銀座一丁目新聞

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山と私

(20)
国分 リン

−八方尾根・撮影山行−

 今回で八回目の挑戦になる。昨年まで天候に恵まれず何度もあきらめた撮影行であった。

 天気図をもとに七回目は2月の建国記念日を含めた三連休に出かけた。前日から宿泊していた八方池山荘(1,850)を早朝4時にアイゼンにワカンをつけヘッドランプで登りだす。−16℃であったが、風も無く登っている時は余り寒さを感じない。第3ケルンで太陽が昇るのを待ち、そこから100メートル程登ったところで三脚を立て準備をした。やはりここ八方尾根は名前が示すとおり、左手に五龍岳・鹿島槍ヶ岳、右手には白馬三山(白馬岳・杓子岳・白馬鑓)、正面に不帰ノ嶮、振り返ると雨飾・焼山・火打・妙高・戸隠の山々が連なり、山好きにとって表現できないような贅沢な所である。
 
 光のショーが始まった。暗い所からうっすらと赤紫に変化し、5分程で周囲がローズ色になり太陽が戸隠の横から顔をのぞかせると山々が赤から金色になる。この瞬間がシャッターチャンスだ。夢中で押す。刻一刻と太陽の色が変化し、やがて山々も周囲の景色も静かな普段の顔になった。「ありがとう」と大声で叫んだ。風も無く、雪の山々に歓迎され涙が溢れた。
 
 初歩的なミスでフィルム感度を誤り、暗い写真になり悲しい。
 
 もう一度アタックと、3月26日八方スキー場のゴンドラ乗り場へ。強風の為運行中止で回復の見込みなし。仕方がなくリフトを乗り継ぐ。普段であればリフトが八方池山荘横付けなのだが、最後のリフトが動かず、アイゼンを付けて歩き出す。トレースも無く、ジグザグに一歩一歩急登を進む。8回目で初めての体験でいかに文明の利器で楽をしているかと思う。リフトで10分のところが1時間もかかり、やっと山荘に16時に着いた。地吹雪で夕景は望めない。
 
 2月よりご来光の時間が早いのに、ちょっぴり寝坊をして4時半出発となり、あげくに夜熟睡できずパワー不足でスピードも上がらず、第3ケルン手前のところで日の出を迎えた。強風で山の輪郭も地吹雪のせいではっきりせず、光の変化も弱く、山々は雲の中。とても残念。でもこの厳しい風景が人の心に訴えるシュカブラやセッピを、きりっと写すことができたらと思う。
 
 スキー場の方は晴れているが、相変わらずの強風でうさぎ平のリフト2本分は動かず、アイゼンを付けて注意深く降りた。
 
 今回の姿が雪山の現実であることを実感し、大事なシャッターチャンスはその瞬間勝負と思い知らされた。

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