2005年(平成17年)2月1日号

No.277

銀座一丁目新聞

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山と私

(15)
国分 リン

−本格雪山体験で得た天園「西穂高岳と独標」−

  「久しぶりのアイゼンワークをします。」先生の声で皆それぞれが持参した十二本爪のアイゼンを靴にしっかりつけ、ピッケルをもち
西穂山荘を後に一面の雪景色の中一歩を踏み出す。ザクザクとアイゼンの爪が雪を捉え滑らない。しばらく足元の感触に気を取られる。
 ふと周りを見渡すとシシウドが見事な雪の花を咲かせている。花柄が凍って雪が付いたものだが、白い景色の中に妙な存在感がある。
一瞬の光にキラキラとクリスタルの輝きになる。
 しばらく雪の感触を楽しむかのように、何も眺望のない雪面を登る。重いザックが背に無いので気分も楽しくキョロキョロと周りを見渡しながら歩く。
 大きな大きな贈り物に出会った。それは青空と周囲の景色である。
尾根で厳しい季節風と雪の衣をまといえびの尻尾になった木々と、青白い厳しい穂高の峰々の連なり、思わずやったーと叫んだ。
 前方を見ると独標の十字が望め、先頭集団の仲間たちの色鮮やかな姿が豆粒のように見え登り始めている。私たちのグループも独標の最後の登りになる。鎖場もある難所を一歩一歩慎重に登るとそこはまるで天園のような世界である。独標の頂は8畳ほどの広さがあり、標識の後方に笠ヶ岳の秀麗な姿が見え、ジャンダルムから奥穂高岳・前穂高・岳沢が望めキラキラと梓川が輝き、霞沢岳・焼岳も見えた。大好きな北アルプスの雄姿にただうっとりする。しばらく景色を楽しみ、心を残して西穂山荘へ、明日の期待に胸が膨らむ。

 翌日西穂高岳を目指し、朝8時に出発。独標まで同じ道程を登るが、雪がちらちらして風も強く青空も景色も望めない。独標からの景色もよくない。尾形先生と岩崎先生がこの先危険なので安全の為
ロープを張る。二人の仲間は無理をしないでこの先は止めます。と
尾形先生がツエルト(非常用テント)を張りここで待っててくださいとこれも教えられた事だ。
 一人一人が急坂をロープ伝えに馬の背のような両側が切れ落ちた
所へ降りるが、余裕が無く皆足元も見えず、やっとの感がある。冷たい風が頬を打ち帽子からはみ出した髪は真っ白に凍り付いている。
 皆緊張して次のステップを待ち受けていると、尾形先生が、この下りの様子ではこの先もっと危険箇所が多いので、中止にして戻ります。の声に残念な思いとホッと胸をなでおろした思いが交錯したが切り替えて戻る。この判断と決断が何事に置いても大切な事と教えられた。
 戻る途中に薄日がガスの中に指しブロッケン現象がおき、自分の姿が観音様のように遠くのガスの中に映り、感激して友と思わず手を合わせた。一瞬であった。
 真っ白な雷鳥をハイマツ帯の雪の上に見つけた。すぐ近くである。
しばらく観察していると、羽をひろげて優雅に飛んで雪の中に消えていった。とても神秘的な姿で、出会えてよかった。

 私は雪国会津坂下生まれで雪の生活は十分体験済みではあるし。雪の怖さも知っているつもりであるが、雪山の気候の変化と怖さは並の物ではないだろう。今回の雪山体験は幸いに天候に恵まれたので、たくさんの贈り物を自然から頂いたし、経験も出来た。 が、自然は決して甘くはないのを肝に据えておこう。

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