2004年(平成16年)5月10日号

No.251

銀座一丁目新聞

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茶説

出処進退とけじめ


牧念人 悠々

  出処進退はそれを決める人の性格がもろに現れる。問題が起きるとよく「今の職にとどまってその職責を全っとうするのが私の責任である」と弁解する人がいる。多くの場合、その職に未練があるから辞められないのである。決断が難しいという事である。それだけ世の中には大人物はいないという証左でもある。「進む時は人任せ。退く時は自ら決せよ」は出処進退の大原則である。現実には簡単にはいかない。その意味では福田康夫官房長官の辞任は見事であった。この政治家の今後を注目したい。新聞は「国民に政治不信を植え付けた責任は重く、辞任は当然である」(5月8日毎日新聞)と説く。そうかもしれないが、当然の事が出来ない政治家、経済人が多い昨今である。
 出処進退のけじめのつけ方は厳しいものらしい。出処進退を自分で決めるほかに、後継者を予め決めておく事と他のいかなる情勢に左右されない事が必要だという(小林吉弥著「後藤田正晴の知恵を盗む」より)。今回 の場合、後継者は即座に細田博之官房副長官が就任したからいいとして「他のいかなる情勢にも左右されない」 という点については若干疑問が残る。「辞職する」は「利益のために名誉を放棄する。一つの利益を一層大きな利益のために放棄する」(ピアスの「悪魔の辞典より)ことだという。とすれば、福田さんの出処進退の見事さは7月の参院選によい影響を自民党に与えるであろう。自民党にとって参院選挙に勝つというのは当面の緊急の政治課題である。その反面、福田さんがいなくなると、当面の政権運営の構図は変る。だが、「政策決定のバランスが崩れ、政権が変質する端緒になる」(前掲毎日新聞)とは必ずしもいえない。政治と言う生き物は首相の器量でどうにでもなる。「丸投げ」「一言居士」など小泉首相に対する批判が少なくないが、その政権が長続きしているのは閣僚を適材適所に配置しているからではないか。国民年金保険料未払いの閣僚を6人も抱えていてはあまり誉められないが、それも福田さんが代表してその罪をかぶった印象を与えた。「福田辞任」の政治的意味合いは意外と大きい。
 菅直人民主党代表の辞任は哀れと言うほかなく、悔いを千載に残したといえる

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