2003年(平成15年)11月10日号

No.233

銀座一丁目新聞

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安全地帯(60)

難事・窮地にあたり心すべき事

信濃太郎

 最近珍しく漢詩を作った。「天地正大の気我に発す 我が気に依り万人相結ぶ 難事に当たり冷静にして沈着たり 悠々として構え淡々として完遂す」
なまけ心がとみにおこりがちであるので、自分を励ますためである。朝起きる前、寝ながら丹田に力を入れて深呼吸を10回する。身体に気を入れ、気力を充実させ、この詩を口にとなえる。
 西武ライオンズの松坂投手は西武・広報部長黒岩彰さんから「窮地に追い込まれたらどこまで冷静でおられるか」と極限状態を脱出する方法を教えられた。それは呼吸法などで冷静さを保つことであった(11月6日スポニチ)。話は少し異なるが、同台経済懇話会でこのほど講演した石原伸晃国土交通大臣に対して同懇話会の瀬島龍三会長は行革の要諦は二つあると忠告した。「一つは筋が通っているということ、あたかも碁盤の目のように筋が通ていること。二つ目は雑音や毀誉褒貶を黙殺して断固として初心を断行することです」
 聞くべき言葉である。難事に当たり心すべき事である。人間は生きて行く上でその質は異なるが、さまざまな難事とぶつかり、窮地におちいる。今読んでいる兒島襄著「日露戦争」第一巻(文芸春秋)にこんな箇所が出てくる。八甲田山雪中行軍に成功した第31連隊福島隊(隊長福島泰蔵大尉・陸士2期)に「郵便脚夫」が猛吹雪の中をいかにして郵便配達をするかを語る。1、吹雪で歩けないとわかったら、雪穴で何日間もがまんすること 2、食糧は米飯はダメだ。凍らないものが良い 3、炒り豆は蛋白源。風邪の予防と体力増進のためにはニンニク。疲労回復と下痢防止のためにはまたたびがよい 4、冬山の歩行には腹と背中、足を守る必要がある、腹と背中の防衛にはクマの毛皮,足はボロ布油紙で包み、その間に唐ガラシをふりかけておけば十分だ 5、寝る時のためにかます袋を二枚用意する。一枚を敷き、一枚に足を入れて寝る。明治35年1月、今から101年前の出来事だが、この注意事項は今でも通用する。知識は体験を重ねて人間の知恵となる。
 なお福島大尉は日露戦争の際、歩兵32連隊第3大隊第10中隊長として黒溝台攻防戦で戦死する(明治38年1月28日)。その数日前に作った漢詩が残されている(高木勉著「八甲田山から還ってきた男」)。「朝に一城を抜き暮に一城 天才向う所鬼神驚く 首将援くるの元何処か知らん 夢は慮陣に馳す千百の兵」
明治の男の気概が伝わってくる。

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