2003年(平成15年)5月20日号

No.216

銀座一丁目新聞

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安全地帯(45)

−髪結新三を見る−

−信濃 太郎−

 前進座五月特別公演・河竹黙阿弥作通し狂言「梅雨小袖昔八丈」ー髪結新三ーを見る(5月14日・国立劇場)。大岡越前守(1677〜1751・江戸の中期)が実際に裁いた事件がこの芝居の元になっている。新三(中村梅雀)が住んでいた長屋や閻魔堂橋のあるところは深川門前中町あたりという。今もこの辺りをしばしばさまよっているから身近かに感ぜられる。江戸時代、髪結といえば男の商売で、多くは橋の両端や川岸地で床店をしつらえて営業をしていた。新三のように、髪結道具を入れた箱(鬢盥)を下げて得意様を回る流し髪結もいた。
一幕第一場。ワルの新三は髪を結いながら日本橋新材木町の大店、白子屋の手代、忠七(瀬川菊之丞)に婿を迎えようとしている、一人娘お熊(河原崎国太郎)との駆け落ちを進める。新三の魂胆はお熊をかどわかして白子屋からお金をせしめようというもの。
一幕第二場。お熊は誘拐された上、新三からなぶりものにされた忠七は永代橋から身投げしようとする。そこを通りかかった老侠客、弥太郎源七(嵐圭史)に救われる。新三と源七の対決が始まる。梅雀と圭史の芸の上の対決でもある。わくわくさせられる。
二幕第一場。源七が深川富吉町の新三の長屋にお熊を取り戻すべく乗り込む。示談金が十両と知って新三は金包みをたたきつけて悪態をつく。源七は我慢する。新三の啖呵も源七の無念の表情もいい。
この決着はお金の方は、海千山千の家主,長兵衛(中村梅之助)に新三がしてやられて示談金30両が半分となり、その上溜まっていた家賃の二両もとられて手にしたのは13両であった。この親子対決も面白い。(二幕第二場・第三場)
新三と源七の対決は、お互いに名セリフを吐きながら匕首と脇差で戦い、源七に凱歌があがる。(三幕第二場)
もう一つの事件は婿、又四郎殺しである。お熊が脇差で自害しようとして、止めに入った又四郎の脇腹に脇差が刺さる。勘違いをした又四郎が白刃をうばってお熊を刺そうとする。来合わせた下女、お菊(山崎杏佳)が刀をもぎ取り、又四郎にと止めを刺し、返す刀で自分の喉を突き死ぬ。みんなで又四郎殺しの罪をお菊にかぶせることにする。(三幕第一場)
大詰が町奉行所の場。新三殺しを問われた源七に手代忠七が「私がやりました」と名乗り出る。又四郎殺しではお熊が真実を述べる。これを大岡越前守(中村梅雀)が「寛仁のお沙汰」をする。席を埋めた満員のお客は舞台に繰り広げられる江戸の風物、人情に、前進座俳優達の熱演に満足し惜しみない拍手を送った。

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