2003年(平成15年)2月20日号

No.207

銀座一丁目新聞

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ある教師の独り言(16)

-色々な子供がいる−

−水野 ひかり−

  六年生を受け持ったある年、家庭訪問で何軒かの家で「先生、Sさんのことですが・・・」Sの過去を語られたことがあった。Sは小さいころから評判の悪い子だったらしい。三歳時に友達の家のテーブルクロスをはさみで切り取った。切っている所を家人が注意すると素直に謝るが目を離すときり始める。そしてとうとう切り取って持っていってしまったという。あるお母さんが我が子の泣き声を聞いて外に出るとSが我が子を転ばせて踏んでいた。Sの父が傍にいたがそっぽを向いて煙草をふかしている。やはり三歳のときだった。幼稚園の時からSのいたクラスでは必ず物が無くなる。Sは目立つことが好きで、よく代表になって司会や挨拶をしたが、器用にこなせるタイプではないので失敗が多い。そんな時、別な子が誉められるとその日のうちにその子の物が隠されたり壊されたりする・・・等々そういうSとうちの子は関わりたくないと正直な思いを語られた。
 聞きながら私はこれは子のこの問題だけではないと思った。Sの母親も役員をよく引き受ける。「いつも押し付けられてー」と言うが、中心になって動き、他の保護者より担任と近い位置にいることを誇りとしているようだった。PTAの飲み会ではカラオケで自慢の喉を披露し教師を「○ちゃん」と呼ぶ。私は子供より母親を早くから知っていた。
 Sは担任の私に良く語りかける。「先生Yさんのことですが、彼女友達がいないので私がなってあげようと思うんですが、きっかけがつかめなくて悩んでます」とか「後ろの棚が整理されてないので私の方法で整理してよいですか」とか言ってくる。何となく空々しい感じもするが、何とか自分の良さを分かってほしいと言う思いからもあるだろうと耳を傾けた。そしてSのよさをアピールしてSの心の安定感を与えていこうと思った。学級の中にはSの行動の一つ一つを悪く取るムードがあり、それを少しずつでも解消していこうと思ったのである。しかしそれは簡単なものではなかった。Sは何とも言えないしたたかさがあった。

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