2002年(平成14年)9月1日号

No.190

銀座一丁目新聞

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茶説

「タラウマラの村々にて」に思う

牧念人 悠々

 山崎博子監督・ドキュメンタリー映画「タラウマラ村々にて」は、NGO「風の学校」の井戸掘り専門家、石田恵慈さん(50)がメキシコ山中の村々で井戸掘りの苦闘する有様を描く。場所は標高2300メートル、岩盤地帯に住むタラウマラ先住民族の村々である。400年前と変らない素朴な自給自足の村々の風景が出てくる。日本からまるまる3日もかかるところ。乾季の水不足は深刻で、水質汚染がひどいために幼い子供が死ぬこともある。このような場所にも日本のNGOは仕事をしている。
 欧米のNGOが手を出せないでいた取り残されていた場所である。石田さんのやり方はアメリカのNGOのようにハイテクを駆使した方法ではなくて、その土地で調達できる道具と資材を使って村人たちと一緒に作る方法である。村人に技術を教えながら井戸を掘る「風の学校」流である。これならば、故障しても現地の資材で修理がきく。ハイテクは故障すると、なかなか直らず、そのまま粗大ゴミとなって、ムダになる。
 井戸掘りは地形、地質調査など掘るまでに時間がかかる。仕事はきわめて地味である。石田さんはそれを黙々としてこなす。アフガニスタンでも1000以上の井戸掘りと修理にたづさわった石田さんは「井戸もその土地にあったそれぞれの違った顔をもつ」という。それが面白いそうだ。
 監督の山崎博子さんは一人でデジタルカメラを持って石田さんに同行した。撮影は足掛け3年にわたった。彼女のねばり強さにはあきれもし、感心もするが、その製作ノートに「国際援助の届きにくい山奥の素朴な生活に、カネとモノをばらまいてきた日本人が置き忘れた『何か』があった」と書く。
 今、日本人は何をすべきかのひとつの答えがここにある。「風の学校」の代表中田章子さんは国際協力の基本姿勢は「助けることは助けられることである」という。NGO活動を通じて生まれた言葉である。いい言葉である。人間はあくまでも謙虚でいたいものである。
 なお、ドキュメンタリー映画「タラウマラの村々にて」が9月7日(土)から9月20日(金)までモーニングショーで午前10時30分、9月21日(土)から9月27日(金)までレイトショーで午後9時30分、シネマ・下北沢(世田谷区北沢1−45−15スズナリ横町2F。TEL03−5452−1400)で上映される。

 

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