2002年(平成14年)6月10日号

No.182

銀座一丁目新聞

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競馬徒然草(13)

−薬物と不正− 

 この前、ソルトレイク冬季オリンピックのフィギュア審判問題について触れたが、時期を合わせたかのように、国際スケート連盟による処分が発表された。フランスの審判員がフランスのスケート連盟会長からの圧力で、ロシア選手の採点に手心を加えたことが明白になった。3年間の禁止処分である。処分の軽重はともかくとして、事件の裏側には、何があったのだろうか。ともかく問題も国際的になっている。
 不正問題は、スケートだけではない。国際大会から離れて国内にも眼を向けて見よう。国体に出場するソフトボールの組織が、自分の県のチームに有利な判定をするようにした。そのことを知った上部機関から組織の解散を提起されたが、拒否したという。この問題は、尾を引きそうである。
 判定の問題から離れると、陸上競技では、筋肉増強剤などの薬物使用が問題になったことがある。不正の意図はなくても、風邪薬が検査にひっかかった例もある。それほど禁止規定や検査は厳しくなっている。
 薬物使用では、化学反応や数値が「動かぬ証拠」になる。さて、競馬の場合はどうかというと、やはり薬物の使用は禁止。「競争能力を一時的に高め、または減ずる」からで、「公正な競馬」の理念に反するのである。カフェインなど41品目が禁止薬物。薬物に関する意識が低い頃には、こんなこともあった。尿検査でカフェインが検出された馬がいた。厩務員にも思い当たることがなかった。だが、身の潔白を証明するために原因を追求した。茶殻を何気なくバケツに捨てたところ、馬がそれを知らずに食べたのであった。
 もう少しお粗末な事例には、こんなのがある。公営の高知競馬場でのことである。1着馬の尿からカフェインが検出された。結論からいえば、「馬の尿に検査係員が自分の尿を混ぜたことが原因」と発表された。1〜3着馬は、競馬法でレース後の尿検査が義務付けられている。係員は馬の股間に試験管状の容器を当て、馬が尿をするのを待つ。この事件の場合、係員は45分待ったが、検査に必要な80mlに達しなかったため、係員は自分の尿20mlを混ぜた。なかなか規定量に達しないので、「自分のおしっこを足してしまった」と、係員は白状した。係員がお茶やコーヒー飲んでいたから、カフェインの検出も当然だった。
もし、馬に禁止薬物を使用していた場合、競馬法違反(第31条第2号)により、3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられる。この馬の場合、金沢競馬から移籍したばかりで、デビュー戦だった。関係者も馬も汚名を着せられずに済んだのは、なによりのことというほかない。なお、1時間待っても尿が出ない場合、血液を採取するそうである。付け加えれば、尿検査をするのは1〜3着馬だけではない。人気になって変な負け方をした馬も対象となる。興奮剤とは別に、馬の走る気を失わせる薬物も禁止されている。
さて、世の中のほうはどうか。不正や違反が続発している。こちらの規定や検査には、「おしっこ」事件のようなことがないことを望みたい。

(宇曾裕三)

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