2001年(平成13年)12月20日号

No.165

銀座一丁目新聞

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花ある風景(79)

 並木 徹

 劇団ふるさときゃらばんのミュージカル「噂のファミリー一億円の花婿」の千秋楽公演を見た(12月11日、東京芸術劇場)。1999年2月和歌山を皮切りに全国都道府県で公演341ステージをこなし、33万人の観客を集めたというから凄い。
 筆者は3月、和歌山の花園村、7月、山口市、それに今回と三回みた。ふるきゃら応援団の中には16回観覧のレコードホルダーもいる。このお芝居はそれだけ、『人生は楽しいというメッセージ』を町や村にばらまいたということになろう。
 見るたびに、感動する場面が違う。人口600人という花園村では中学校の体育館での公演であった。村の人口の半分以上が集った。昭和28年7月、台風に襲われ、村人6000人以上が犠牲になった体験をもつだけに、酪農一家風見家の牛が台風で流される場面では、観客は舞台を凝視し、身動きひとつしなかった。牛を守るため、村人が協力して雨と風と戦う姿に感動した。
 『何も彼も山越えて来るわが村よたとえば鰯雲もあなたも』と詠う花園村村長、部矢敏三さんは文化人でもあった。議員たちの反対を押し切ってミュージカルを開いた。
 この劇団は全国棚田学会に深く係っている。山口公演は山口県油谷町の棚田見学・シンポジュームとの組み合わせになっている。パネリストの一人、中原中也記念館長、福田百合子さんとは知り合いであったので、山口まで出かけた。この時は、風見家の主婦、沖山稔子さんが上手くなっているのに驚いた。沖山さんの顔は日本人のお母さんにふさわしいのかもしれない。だが、このように夫に尽くし、子供を思うお母さんも次第にすくなくなっている。だから余計に受けるのかもしれない。
池袋公演では、孫の晃をかばうタマエの大河原もと子さんが、元気で、人一倍張り切っているのが目立った。大塚邦雄さんも小島茂夫さんも相変らず頑張っているのも嬉しかった。
 この劇団は手品師のように地域の中心人物を口説き、地域を丸ごと取り入れ、協力させ、公演を成功させるように仕向けてしまう。その手口たるや見事というほかない。公演の内容が懸命に協力した人たちを裏切らないから、またお手伝いしようということになる。来年も期待する。自主制作の映画まで見せてくれるという。楽しみである。

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