2001年(平成13年)10月20日号

No.159

銀座一丁目新聞

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茶説

ウィルス・テロを無視するな

牧念人 悠々

 本紙は昨年3月10日号で「ウィルス テロに備えよ」と訴えた。何をこの平和の日本でと思われた人が多かったであろう。それから1年半後、現実味をおびてきた。同時多発テロでは実行犯のひとりが飛行機でウィルス散布の計画を考えていたふしがある。米フロリダ州をはじめニューヨークでなどで炭そ菌保菌者(内1人は死亡)がみつかり、その数が次第にふえはじめており、全米はパニックに陥っている。テロとの関連はまだ判らないにしても、ウィルスの危険がわれわれの身近に迫ってきたようである。
 前回の茶説は、1992年にアメリカに亡命したケン・アリベック(元ソ連の生物兵器製造組織の責任者)のアメリカ議会での証言に基づく。効果的な炭そ菌兵器を考え出したのはアリベック自身である。ミサイルに粉末炭そ菌100キログラムを充填して発射すれば300万人の人命が失われる。なにもミサイルでなくてもいい。農薬散布の飛行機からまけばすむ。ビニールの袋に入れて、繁華街に落とせばよい。その著「バイオハザード」(訳山本光伸・二見書房刊)にはサリン事件にもふれている。それによると、裁判での教団幹部の証言により、教団が1990年から95年の間に9回、東京と横浜にボツリヌス菌と炭そ菌を散布しようとしたことがわかった。遠藤誠一被告は屋上やバン後方から病原菌を撒くのは、ずさんな散布法であるし、自分たちの菌は致死性が不十分だったと証言したという。この事実は見逃してはいけない。散布の方法が研究され、菌の致死性が十分確保されいていたら大惨事になっていたからである。
 ペスト菌、エボラ出血熱ウィルス、炭そ菌、天然痘ウィルスなどは恐るべき生物兵器である。その種の兵器がソ連崩壊とともに、職を失った科学者や技術者たちがその兵器をほしがる国々へ流出している。この点も注目すべきである。
 日本人はテロに対してきわめて鈍感である。1995年3月、サリンによって死者12人、被害者5千5百人を出し、都心部でパニック状態が起き、交通が麻痺した。それなのにオウムに破防法の適用を見送った。事態の認識が甘すぎる。今回の同時多発テロにしても国際自由社会への挑戦であるのにかかわらず、それを報復はいけないとか、アメリカに追随するのはおかしいとか愚にもつかないことをいっている識者がいる。たとえば、日本で天然痘ウィルスを撒かれたらお手上げである。疱瘡ワクチンの備蓄がないからである。アメリカは世界保健機構が焼却方針をきめたのに、生物兵器に対するテロに備えるため天然痘ウィルスを破棄せずにいる。日本とちがって危機管理がゆきとどいているからである。それでも100パーセントテロを防ぐ事は出来ない。起きた時に被害を最小限に留める事は可能である。テログループ対国家の新しい戦争である。ウィルス・テロはどこでも起こりうるのである。日本も厳に警戒しなければいけないのである。

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