2001年(平成13年)9月20日号

No.156

銀座一丁目新聞

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花ある風景(70)

 並木 徹

 前進座の嵐圭史さんが「平家物語(百二十句本)・全巻完全朗読」のCD(29枚)を新潮社からこのほど出した。値段は5万円(税別)というのに売れ行きは上々だという。舞台・稽古・劇団の活動の合間を縫っての収録作業で、足掛け7年かけてやっと完成した。
 嵐圭史さんは木下順二作「子午線の祀り」の平知盛役で出ている。この芝居は一の谷の平家敗戦から壇ノ浦の平家滅亡までを描く名作である。
 1979年4月9、10日と下関で開いた初演をみた岩波ホール総支配人、高野悦子さんは、「天から舞い降りたのか、地から湧き出たのか、知盛はまさしく知盛その人であった。名演技であった」と激賞する。映画監督の羽田澄子さんは「知盛のイメージを壊したくないために嵐圭史さんのそれ以外のお芝居は見ないことにしている」とまで語る。嵐圭史はこの役で名優の評価をえた。「平家物語」とはきっても切れないえにしがある。原文の全文朗読はこの人以外にふさわしい人はいないといってよい。
 1992年1月から2月にかけてセゾン劇場で「子午線の祀り」を上演した際、高野さんとともにチケット売りに苦労した。この時初めて嵐圭史さんと知り合うのだが、面目をほどこしたことがある。同期生の当時東日印刷社長、奈良泰夫君、三菱建設社長、浅山五生君(故人)にそれぞれ、チケット300枚を買っていただいた。両社長が取引先にくばり、お芝居を見せたところ、取引先の社長たちが異口同音に「素晴らしい芝居であった。あなたに、このような芸術的教養があるとは知りませんでした」といい、感心されたという。あとで、奈良、浅山両君から「おれの評価が高くなったよ」と感謝された。
 「平家物語」の朗読を通じて嵐圭史さんは改めて日本語の美しさを痛感したという。ぜひともこのCDを聞いてほしいと訴える。「いま、瀬戸内さんの源氏物語が評判になっているが、ここに、平家物語のCDが割り込んで、平成の源平合戦を繰り広げたい」と意気軒昂である。

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