2001年(平成13年)7月1日号

No.148

銀座一丁目新聞

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茶説

時代をもっと、激しく斬るべし

牧念人 悠々

 毎日新聞の話題の「記者の目」が出来てからこの7月で25年を迎える。当時この欄をつくるのに、携わった者の一人としていささかの感慨を持つ。発案者は当時編集主幹の平野 勇夫さんである。企画の趣旨は、時々の問題をとらえて記者が自由に論ずる。たとえそれが少数意見であっても、異見であってもかまわない。建前論を排して本音を語る読み物にしたいという狙いもあった。そのころは珍しい署名入りであった。
 このころ、毎日新聞は開かれた新聞をめざしていた。いまも続いている「新聞時評」もその一つである。なるほどと読者が感心し、こんな考えもあるのかとうならせるものにしたい。読者が親しみをもち、書き手の顔が見え、読者の親近感を抱かせようとした試みであった。
編集局長であった私はその難しさに頭をひねった。ニュース報道は奥が深い。それは千変万化する。的確に捉えて読者に伝えるのが記者の仕事である。斬新な形でニュースを斬る試みはやり甲斐が十分ある。書き手をそろえて、テーマを選んでスタートした。
 記者の目といってもしょせんは人間の目である。しかし、普通の人よりは多くの人と会い、事件の渦中の当事者ともインタービュ−出来、情報量をたくさん持っている。何よりの強みは現場を知っている事である。
 案ずるより生みが早い。掲載してみると、面白いコラムとして評判になった。
 記憶にのこっているものに、マリファナ論争がある。特派員の経験を持つ記者がマリファナを栽培したこともあり、吸ったこともあると賛成論を書くと、厚生省担当の記者がマリファナには害がある、そんなことを堂々と書かれては困る、と反論したのである。話題をよんだ。また、検事正がゴルフ会員権を購入、ゴルフをしたことを非難する記事が各紙に掲載されたことがある。これにたして検事正がゴルフすることがどこが悪いのか、むしろ大いにやるべきだと、日ごろ記者が思っている本音を記事にした。これらの記事はこれまでは記事にするのになじまなかった。「記者の目」だからこそ記事化できたといえよう。
 この他評判になった記事はいくらでもある。菊地寛賞もいただいた。記者たちがこの欄を書くのを誇りを持つようになった。昨今、聞くところによると、書くのを拒否する記者が少なからずいるという。あきれて物も言えない。
 20世紀末から21世紀に書けて、時代は激変している。混迷を深め、不透明となっている。社会組織、システムに明らかにガタがきている。考えられない事件、事故が頻発している。教育の現場は荒れる。家庭も崩壊する。義務を知らず、自己主張ばかりする。すぐキレる若者。警察官の不祥事、役人の汚職、政治家の腐敗、国の為、人のために尽くす志はどこへいったのか。閉塞感がみなぎっている。このような時こそ「記者の目」の存在がますます必要である。時には冷静に、時には怒り、斬って斬りまくれと言いたい。

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