2000年(平成12年)4月20日号

No.105

銀座一丁目新聞

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茶説

「母はやさしく強くあれ」

牧念人 悠々

 今年もまた考えられない事件が続く。名古屋市緑区の15歳の少年が中学校の同級生らに現金約5000万円脅し取られた事件は驚くほかない。「事件の芽」を知りながら適切な処置をしなかった学校、警察がいたずらに、弁解し、謝るだけでは問題が解決するわけではない。さらに被害者の母親の責任を無視するわけにはいかない。「考えられない事件」の根は意外と深いように思う。

少年は8ケ月以上も事件を打ち明けられず、母親も「息子がいじめられるよりはましだ」現金をあたえつづけたという。

酷な言い方だが、母親に大きな責任があると指摘したい。ペスタロッチ(スイスの教育者)は「母親が最大の教育者である」といった。子供の人格形成期に一番身近にいて愛情をそそぎ、しつけをするからである。

子供が母親の貯金から50万円を勝手におろしたことをしりながら、深く追求しなかった。いじめや恐喝にあったら、子供の表情や態度でわかる。相談所、学校に相談するのもいいが、始末をつけるのは母親以外だれもいない。母子家庭であり、核家族化したいま、積極的に母親が解決にのりだすほかないのである。

昔なら兄弟も多く、大家族であれば、みんなが団結し外敵にあたることができた。意地悪されても、脅されても、兄弟が守ってくれた。

日本の核家族化は1961年(昭和36年)にすでに全世帯の68パーセントに及んでいる。1970年の国勢調査では平均世帯人数は3・69人となりますます進んでいる。残念ながら身の回りにに親身になって相談に乗ってくれる肉親はいない。

本来、その代わりを果たすはずの学校も児童相談所も警察もあてにならないのはこれまでの数々の事件をみてもわかる。人のため、仕事のため寝食を忘れ家庭を顧みず働く志ある人がきわめてすくなくなったからである。

被害者の少年が恐喝の事実を話したのは意外にもいじめられ負傷して入院した病院先であった。少年と同室の患者たちが不良グループに呼び出されて少年が屋上にいったのを知り、その不良らを怒鳴って退散させたのがきっかけであった。ここで少年ははじめておどされてお金をだしていることを告白した。

心理学的には脅迫された少年は容易には口を開かないものだそうだが、少年の心の堅い扉をあけたのは「人の愛情」であった。母親にこの愛情が欲しかった。自分の息子を不良グループから守るのは「お金を与えつずける」ことではなくて、いかにして正面から悪と戦うかを考えることであった。そのひたむきな愛情が人を組織を動かすのだと思う。

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