2000年(平成12年)3月1日号

No.100

銀座一丁目新聞

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茶説

「あれは最低の映画よ」

牧念人 悠々

 ある映画評論家の声を背に、井坂聡監督の映画[破線のマリス」の試写会に出かけた(3月8日から全国公開)。いわれたほど悪いできではなかった。むしろ、興味深く、面白く感じた。

 脚本は野沢尚さん。同名の小説で第43回江戸川乱歩賞をとっている。映画の筋は夫と子供と別れてまで仕事をとったテレビ編集者が敏腕なるが故に事件にからんで、ニセのビデオテープをつかまされ、ワナにはまり、破滅するというもの。野沢さんはいう。[過剰な映像処理や劇的な音付けに視聴者は簡単にだまされてしまう。テレビの情報を信じてはいけない。疑ってかかれ」
映画からはその意図が十分汲み取れた。主演の黒木瞳、陣内孝則も好演している。真実とは何かーこれを追及し、つきとめるのは新聞でも難しい。それを常に映像を意識しながら、視聴者につたえるのはなみたいてのことではない。
この映画でも警察の取り調べを受けてきた陣内孝則が演ずる麻生公彦が「笑う」シーンが問題となる。やり手の編集者遠藤瑶子役の黒木瞳は不自然な笑いととり、事件追及の意欲をかきたてる。しかし、麻生は笑顔はボール遊びをしていた少女に向けられたものだと主張した。ビデオにはその少女の姿があった。麻生の言い分が正しかった。

 離婚してまで仕事に打ち込む遠藤をえがくのに、コンビでの買い物シーンよりも寝食を忘れ、なりふりかまわず、取材、編集にのめりこむ姿を多く映し出したほうが迫力があったのではないか。欲を言えば、TV局が抱える問題をフラッシュでみせれば、なおよかったと思う。

 かって山田洋次監督が「評論家のみなさん、日本映画を余りけなさないでください」と訴えたことがあった。悪口から何も生まれない。日本映画の良い点を指摘、建設的意見をのべてそれを伸ばしていくべきだと思う。

 「マリス(悪意〉の除去」が報道の鉄則の一つというならば、ぜひ映画評論家にもそれを適用して欲しいものだ。

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